第7話 洋式派? 和式派? ゲルマン民族大移動
テレビの画面にはデカデカとテロップが流れ、スタジオ内には向かい合うコメンテーターたちの座る姿が映し出されていた。
『24時間徹底生討論! あなたは洋式派? それとも和式派?』
番組の司会者がカメラに向かって語りかけた。
「それでは引き続き、熱い議論を交わしていただきましょう。今度は洋式派の皆さんの番です」
一方の陣営の人々が、洋式便器が描かれたフリップを用意した。代表と思しき人物が説明を始めた。
「まず洋式便器の第一の利点としましては、便壷と臀部とのあいだに、差があるということです。つまり水の跳ね返りや臭いの充満、あるいは便器を汚す割合がより少ないのです。また、和式はしゃがむというかなり無理な体勢を取らなければならないので、お年寄りや体の不自由な方に対して配慮が欠けているという点も見落とせません」
すると、和式派がたちが次々に反論した。
「じゃあ、皮膚病予防に対してはどうなんですか? 除菌シートがないところも多いですし、便座をペーパーで拭いただけでは、確実に除菌できないと思いますがね」
「最近、ある女子高校では、生徒の要望により、便器をすべて和式に統一したという報告も届いています。この結果から見ても、時代は和式へと回帰しているんです」
「しゃがんでキバらなきゃ、出るものも出ねえしな」
すると、洋式は重鎮が声を荒げた。
「だいたい、他人の肌が触れたところに座れないなんて、神経質すぎるんだ。根性がない!」
「ウンコ座りができないほうが、根性ねえだろ!」
「さすが、ヤンキーだな!」
「何だと! この洋式かぶれが!」
討論は白熱し、罵り合い、掴み合い、果ては物の投げ合いになってしまった。カメラが司会者に向けられた。
「ではここでいったん、CMを」
テレビの教養講座らしい映像に切り替わった。教授がヨーロッパの地図を示しながら、世界史を解説している。
「こうして4世紀から6世紀にかけて起こったゲルマン民族の大移動は……」
突如、教授は顔を歪め、腹を押さえて前かがみになった。
「ゲルマン民族大移動……ゲルマン民族……ゲルマン……もう、ダメだ!」
教授は内ポケットから小瓶を取り出すと、中の錠剤を飲んだ。
『下痢、食当たり、腹下しに、整腸薬ゲルマン、新発売!』
テロップとナレーションで商品が紹介され、教授が笑顔を向けた。
「気分はまるで便秘並み!」
(続く)
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