第5話 川屋勉の女難

 そう、女子校。中学や高校なら男子女子と分かれているところも多い。しかし、大学はどうだ? 男子大なんて聞いたことないだろう?

 納得いかない。今の時代、性別で分けるべきではないのだ。

 だから俺は堂々と女子大を受験する。誰にも、気づかれない。そりゃ、徹底的に女性に見えるように女装したからさ。それが男としての意地。レジスタンスだ。

 そして、合格。入学しても、クラスメートの女子たちに、バレることはない。脱がなければ大丈夫。花の女子大生に囲まれた花園ライフが始まった。


 その日は、ジャーナリストとしても活動している女性講師のフェミニズム論の授業だった。周囲の女子大生に違和感なく溶け込んで席に着いている俺に、女性講師は名指ししてきた。

「川屋さん、あなたが提出したレポート『現代社会におけるミス・コンテストについて』は、どう読んでも、ミスコンを容認しているように書いてあるけど、本気でそう思っているの?」

 俺は素直に肯定した。ミスターコンだってあるのだから。

「どうして? あれは男どもの欲望を満たすためにあるのよ。外見で判断するなんて、私たちはモノじゃない」

「外見なら、女性も男性に対して、してるじゃないですか」

「あなた、まさか男どもに味方する気?」

 女性講師は教壇から降り、俺のほうにやってきた。顔が怖い。

「奴らは憎むべき敵よ。これまでずっと我慢してきたけど、今こそガツンと思い知らせるべき。ついに立ち上がる時が来たのよ!」

 女子学生たちの間から、熱い拍手が沸き起こった。

「待ってください!」

 俺は立ち上がり、力説した。

 女として生まれたからには、女としての美しさをもっと有効に使うべきではないか。たとえ容姿だけでも素晴らしければ、それはそれで生まれ持った才能なのでは? 運動神経が抜群の人はスポーツ選手に、音楽の才能がある人はミュージシャンに、文章の上手い人は作家に。別にあなた方が口を出さなくても。もし、この世にミスコンがなくなったら、ミスコンを目指していた多くの女性が生きる希望を失うことになる……と。

「川屋さん、あなた、何を言ってるの!」

「結局、あなた方はねたんでるんですよ。もし美しければ、進んでミスコンに出たんじゃないですか?」

「やめなさいったら!」

 女性講師は俺を席に着かせようと、肩を押さえてきた。俺はその手を振り払った。女性講師は負けじと、つかみかかる。揉み合いとなり、弾みで俺のカツラが吹っ飛んだ。

 静まり返る室内。

「男よ! 男が紛れ込んでる! 捕まえなさい!」

 女性講師の金切り声により、女子学生たちが一斉に俺に襲いかかってきた。

「やめてくれ! ああっ!」

 女たちは容赦なく、俺をボコボコのメッタ打ちにしていく。このままでは命が危うい。とにかく逃げなければ。

 俺は服も下着もすべて剥ぎ取られた状態で、からくも廊下へ転げ出た。女性講師と女子学生たちがどっと出てきて、狂ったように追いかけてきた。


 俺はトイレの個室へ逃げ込み、鍵をかけた。女たちが乱入してきて、個室の上からうじゃうじゃと手を伸ばしてくる。まるでゾンビだ。俺は恐怖で腰を抜かした。

 女性講師の声が響く。

「開けなさい!」

「悪かった! 謝るから許してくれ! 二度と逆らわないから!」

「もう遅い! あんたらの時代は終わったのよ! 覚悟しなさい!」

 激しい音ともに、個室のドアが割れた。女性講師が斧でぶち破ったのだった。


                (続く)

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