対のたまご
改めて、テーブルの上の王冠を見る。
金を細く細く伸ばした蔓草の紋様がぐるりと
父は竜と女神の象嵌を指で撫でながら話を続けた。
「ヌンドガウの創世神話はご存じですね?少年の姿を取った月の女神が、怪我した幼い竜を助ける話です」
「ええ」
「女神は国に戻らねばならず、再会を約束して金と銀の珠を竜に託すのです」
そこまでは魔法使いの話とほぼ同じだ。託した珠が二つあったのは初耳だけど、それがどうして今ここにあるのか知りたい。
「『竜月の宝珠』と呼ばれたこれは2人を襲った困難を何度も救いました。そして、地上に降りた女神は人間となり、竜もその形に合わせて2人は夫婦になったのです」
母が父の話を補足するように珠について説明してくれた。そんな古いものだったんだ。
父は黙ってお茶を飲んでいたが、喉を潤し終えてまた話し始めた。
「やがて彼らの子孫から獣人が生まれ、人間の国が広がるにつれ、勢力を二分するようになりました。その頃に生まれた王家の双子、片方は竜の血を色濃く引いた王子が、憂慮の末に獣人の王国を作り彼らを保護したのです」
「それが父上だということですか?」
「いや、金と銀の珠が最初に分かたれたのは遠い昔だ。そういうことは長い歴史の中で度々起きていたから、私は祖先の例に
父は僕を見つめて静かに言った。確かに神代の頃から生きているはずはないよね。
あれ?……そうなるともしかして、僕とローズって遠い親戚だった?なんだか複雑な気分……。
「金の珠は王冠として獣人の国に伝わり、地に満ちた人間達は神々の恩寵を忘れ、やがて星に還った女神と共に銀の珠は失われた……と思っていました」
「それを引き継ぐ者が現れた時にあるべき場所に収まる……とも言われていますね」
それまで黙っていた魔法使いが、いつになく真面目な顔で僕を見る。すると全員の視線が僕に向いて、思わず引き攣った声が出た。
「そ……そんな大袈裟な話なの?」
「大袈裟に考える必要はないよ。獣人として生まれて人の世で揉まれ魔女に育てられたなんてそうそうあることではないけどね。月の女神が君を選んだのなら、自分が思うようにすればいいんだ」
「あれが本物かどうか分からないよ?」
「これに近づければわかる」
父は王冠を軽く持ち上げて振って見せた。今、銀の珠は僕の部屋の棚にしまってある。
確かめるのは少し怖い気もするけど、みんなの期待の目と、自分の好奇心に負けた。
「ちょっと待ってて」
僕はふらふらと椅子から立ち上がり、自分の部屋へと向かった。
棚に収められた銀の珠は、相変わらず卵の形状であれから特に変化はない。手に持つと少し重みが増している気がしたけど、多分気のせいだろう。
僕は皆が待っている部屋に戻り、手にしていた銀の珠を王冠の近くに置いた。
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