赤のたまご
フローリアやローズを含め、連れ去られたと思しき娘は全部で6人。
精霊の話では一人で連れ去ったらしいが、抵抗もされずにその人数を連れて行くなんて普通の人間に可能だろうか。
獣人同士なら匂いで分かるはずだけど、残念ながら僕はあまり鼻が良くない。
だが、精霊が言っていた「綺麗な男の人」というのは、十中八九あの吟遊詩人のことだろう。
感じた違和感からして獣人や人ではないにしても「何か」であることは確かだ。
「クラウス、落ち着いて。精霊たちが教えてくれたんだ。娘たちは川の方へ行ったって」
「川?川には僕たちが乗って来た船が待機してるはずだ。すぐ後を追おう」
湖水地方のヌンドガウは造船所がたくさんあり、産業もそれにちなんだものが多い。お師匠さまは僕が竜になった時の金鱗を船の材料用に売りつけていたっけ。ちゃっかりしてる。
それにヴォジャも海辺の造船技術に長けたクライナート王国出身だから、こちらに来る際に水路を使ったのだろう。
ヴォジャは僕の返事も待たずに踵を返そうとして、後ろにいた大きな男性にぶつかった。
気配もなく立っていた男性は王子の体を難なく受け止め、赤いマントのフードを頭から外した。表れた栗色の巻き毛の持ち主は、昼間森で会った
「ジャンゴさん」
「悪い、船の話なんだけどな。あの船は使えないぜ」
「聞いてたのか?なぜ君がそんなことを知ってる!?」
「まあ、落ち着けって王子様」
仮にも王子に向かってぞんざいな口を利くんだな、とは思ったけど、そのことを言及している暇はない。
ジャンゴさんはヴォジャに人払いを頼むと、声を潜めて話し始めた。
「俺たちは表向き賞金稼ぎを名乗っているが、本来は姫さんの護衛兼密偵だ」
「ああ、ローズに聞いたことあるよ。手足となって働いてくれる者がいるって。君がそうか。なんで会わせてくれなかったんだろう」
「密偵がほいほい身上明かす訳ないだろ」
「それは……そうだが……」
ヴォジャは不満そうにしながらも、大人しく彼の話に耳を傾けることにしたようだ。
年長者の余裕か、それとも彼の元々の性分か、落ち着き払った態度でジャンゴさんが続ける。
「俺が傭兵団にいたのは知ってるな?怪我をして引退を考えてた頃に今のかみさんと出会った。彼女は元々姫さんの為に動いてた。ヌンドガウの騒ぎの時も裏で立ちまわったって聞いたぜ?」
「……そうなんだ」
ああ、あの邪悪な魔女騒動の時、ローズは一時姿を消していたけど、匿ってくれる人がいたんだね。
ジャンゴさんは、しょんぼり肩を落すヴォジャを少し気の毒そうに見おろした。そりゃ知らされてなかったのはショックだよね。お転婆姫を奥さんに持つと苦労するな。
「まあ、そう、落ち込むな。姫さんは誰かに相談するより自分で動く方が早いって考える性質だろ。とにかく今は自由に身動きできない彼女の代わりに俺たちがあちこち探ってた訳だ。賞金稼ぎはついでだ」
「それで?なぜ船が使えないんだ?」
「姫さんが娘たちと一緒に乗ってったからさ」
「はあ!?」
「しーっ、声がでかい」
ジャンゴさんは慌てて王子の口を押え、キョロキョロと辺りを見回した。
ヴォジャだって大声出したくもなるだろう。誘拐犯と思しき男と娘たちを連れて、攫われたのではなく自ら船を出したなんて聞いたら、僕だって驚く。
だから思わず言ってしまった。
「え?まさかローズが主犯なの?」
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