飛のたまご

「ローズがそんなことするはずないだろ!」


 案の定、ヴォジャに怒られた。そりゃ、僕だって信じてないけど、つい口が滑った。こういう時すぐ発話出来ると困る。いや、困らないけど余計なことを言ってしまうのが困る。口は災いの元。

 

「詳しいことは言えないが、姫さんは誘拐に関わってない」

 

 ジャンゴさんは苦笑いしながら僕に食って掛かるヴォジャを押しとどめてくれる。


「当たり前だ」

「姫さんから伝言だ。『わたくしは無事だから心配しないで。解決策があるわ』だってよ」


 どうやらローズは何かを知っていて、その解決のカギを握っているらしい。

 それにしてもジャンゴさん、男の人なのに絶妙に素のローズの物真似が上手い。近くで接していなければ分からない仕草だ。その点からも彼の伝言は信憑性が高いように思われる。

 ヴォジャは澄んだ水色の瞳をかげらせ、川の方角を見て不安そうに呟いた。


「そうは言っても心配はする。彼女は無茶をするから」

「……そうだね。後を追うなら僕が変身して飛ぼうか?」


 本当は目立ちたくないけど、そうも言ってられない事態だよね。とりあえず人目につかない場所に移動して変身すればいいか。

 そう思った僕の背後から、聞き慣れた声が聞こえて来た。


「移動なら私にまかせて~♪」


 お師匠さま……。秘密の話に割り込んでこないで。楽しそうな顔してる場合じゃないってば。

 見れば彼女は両手に金色の二枚貝のようなものをいくつか持っている。嫌な予感。


「じゃーん!魔女さま特製ゴールデンドラゴンバード!」


 え……かっこ悪い……。何その名前。頬を引きつらせる僕に構わず、お師匠さまは得意げに胸を張る。


「この二枚貝を開いて呪文を唱えれば、金色の空飛ぶ乗り物に早変わり!」

「……ちなみにその材料って」

「もちろんレピくんの金の鱗です!船の底板にも使用されている丈夫な魔力伝導素材ですよ!空気中の魔素を取り入れて使える手間要らずな乗り物です!どうですかお客様、今ならお安くしておきますよ」

「買った!」


 買うの!?

 屋台の売り口上みたいな宣伝に、ヴォジャが飛びつく。

 それって前に火山の国アクロデールでお師匠さまが乗ってた魔導具の鳥だよね?いつの間に改良版作ってたの?

 そりゃ高価な素材を使った魔導具はお金持ちをターゲットにするのが基本だけどさ。


「毎度あり〜!」


 手持ちの二枚貝をすべて買い取って貰って、お師匠さまはご満悦だ。

 ヴォジャに使い方と呪文を教えているお師匠さまを見ていたら、彼女はこっそり「やったね」とハンドサインを送って来た。

 商魂逞しいってこういうのを言うんだ……。


 そしてにこにこしながら僕に近づいてくると、腕に掴まり背伸びをする。耳に息が触れるほど間近に迫った唇が囁いた言葉は。


「レピの背中に乗るのは私だけの特権でしょ?」


 ……そういうところ、ほんとずるいよね。

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