青のたまご

 なんとなく危機感を覚えて籠を持つ手に力がこもる。一度籠の中に卵を入れてしまえば、意思に反してそれを奪われることはないのだけど。


 籠に入れると同時に、その点数が審査する者達の元へ情報として届く仕組みになっているらしい。自ら譲渡した場合も同じだ。お師匠さまはその魔法の分布図と得点表を前日まで仕上げていた。

 意外とこまめだな、と思ったら、大まかなところは聚合の魔法使いの手によるものだと知って、ちょっと面白くない。

 確かに情報収集にかけては奴の右に出る者はいなさそうだけどね。


 でも今はそんなことを考えている場合じゃない。ガサガサと繁みを揺らす物音はどんどん僕に近づいてくる。警戒しながら見守っていると、葉の間からひょこっと顔を出した者がいた。


「レピ!?レピじゃない!」


 美しい金髪に葉っぱをたくさんつけた青いワンピースを着た娘が、僕を見て大声を上げる。そこにいるはずのない人物に僕は呆然とした。


「ローズ姫……?」

「お久しぶりね」


 ある意味危機的な予感は当たっていたと言える。ヌンドガウ王国の王女、ロードピス・フォン・ヌンドガウことローズ姫は、僕の声に反応して、森の中にそぐわない優雅なカーテシーを披露してみせた。

 そういえば姫は変装が得意だった。出会った頃は自分の城の召使に扮して隠し通路を歩き回っていたっけ。いや、そうじゃなくて。


「どうしてここに?」

「魔女様が招待状を送ってくださったのよ。知らなかったの?」

「いや……でも君は王女だし。気軽には来られないと思ってたよ」


 それに今は結婚して父王の補佐もやっていると聞いた。儚げな見た目に反して気が強く頭の回転が速い。邪悪な魔女殲滅作戦の際は将軍のようだった彼女なら、もう王様は引退して跡を継がせてもいいんじゃないだろうか。

 

 僕の言葉を聞いたローズは、くっきりくびれた細い腰に手を当て、金色の長い髪をさっと肩の後ろに払った。ヌンドガウの湖のような美しい青の瞳が挑戦的に煌めく。


「わたくしを誰だと思ってるの?ロードピス・フォン・ヌンドガウよ。国の恩人のご招待をないがしろにするような真似をすると思って?」


 ……だからって高貴な人間がそうも自由に行動したら、周りが大変だと思うんだけど?相変わらず嵐みたいだ。

 僕も一応王子と呼ばれてはいるが、獣人の国は人間ほど複雑じゃないから、自由度は高い。


 思わず半眼になってしまった僕は悪くないと思う。

 でも次の瞬間、繁みから現れた人物を見て、驚いた僕の目は全開になってしまった。


「ローズゥ~足速いよぉ~」


 白金の髪にローズに負けないくらい葉っぱをつけた美麗な男が、水色の瞳を潤ませてローズの傍に近づいてきたのだ。

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