藁のたまご

 それからしばらくすると、ディルとフローリアがマイノを伴って戻って来た。

 罠で逆さ吊りになってたらしく、ふらついて歩けないマイノをディルが荷物のように担いできたのだ。

 初めて会った時は小太りで小柄だった彼も、今はディルと同じくらいの背丈で筋骨隆々なのに、ディルは彼を片腕で軽々と扱い、いささか乱暴に床の上に下した。獣人て馬鹿力なんだよね。


「いってぇ!なんだよ!」

「ああん?師匠に向かってその口の利き方はなんだ?」


 偉そうな口調のディルに苦笑が漏れる。昔、僕がマイノの希望を叶えて、ディルに剣術や格闘技の指南を頼んだ。いわば弟子と師匠の関係だけど、出会い方が最悪だった2人は、今でもこうやってやり合う。とはいってもこれは挨拶みたいなものだ。


 僕たちは一足先にハーブティーでお茶の時間を楽しんでいたので、彼らにも席に着くように促した。

 

「マイノ、家の裏は罠があるって何回も言ったよね」

「だってよう。フローリアが裏庭にある綺麗な花が見たいって言うからよ」


 やんちゃな彼も末っ子には弱いらしい。マイノは不貞腐れてハーブティーを啜った。

 髪色こそフローリアと同じ藁色で変わりはないけど、すっかり男臭くなってしまったその顔を見ていると、少しばかり羨ましく感じなくもない。うそ、本当はとても羨ましい。僕もムキムキになってみたかった。

 フローリアはマイノとディルに挟まれて、「ごめんなさい」と、ひたすら恐縮している。ディルはそんな彼女を見下ろして、いつになく優しい声を出した。


「いや、フローリアは悪くない。お兄さんがマヌケなだけだ」

「はあ!?つーかディル、フローリアから離れろ」

「あいにく席はここしか空いてない」


 血の気の多い脳筋狼が珍しく穏やかにマイノをいなしている。というかフローリアばっかり見てて他は気にならないみたいだ。面白い……ぐいぐい行くなぁ。


「フローリアは花が好きなんだな。2人で一緒に見に行こうか。俺は罠にはかからないぞ?」

「ディル、話を聞けぇ!俺の許可なく妹を誘うな」


 頭上のやり取りに再び涙目になっていたフローリアは、助けを求めるように向かいに座る僕を見つめた。どうしようかな。

 僕は迷って隣のお師匠さまを見る。彼女も面白そうに事の成り行きを見守っていたが、急に何か思いついたのかキラキラと目を輝かせた。


「2人とも宝探しで勝負したら?せっかくのゲームじゃない。勝った方の希望を叶えるってことで、ね?」


 小さな両手を打ち合わせる彼女は、無邪気な少女にしか見えない。でもこういうところはやっぱり魔女なんだなって、少しげんなりした。


 絶対面白がってるだけだ。

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