茶のたまご
戸口を全部塞ぐようにして立っていたのは
背が高く、雄牛のようにガッチリとした大男。軽そうな革のブーツを履き、焦げ茶の巻き毛の上には旅人の丸いフェルト帽、手には捻じれた太い杖。捻じれに沿うように彫られた意匠は二匹の蛇。
「よう、久しぶりだな。爆散ちゃん」
好奇心に溢れた茶色の垂れ目、ニヤリと笑った大きめの口元は顎髭で覆われている。
魔女や魔法使いは本当の名前を人に明かすことがないから、得意とする分野の名称で呼ばれることが多い。彼の場合は「情報収集」、お師匠さまは……。
「もう!その名前で呼ばないでって言ってるでしょ!あれから指も鳴らせるようになったのよ」
「100回に1回くらいね」
僕は後ろから静かに訂正した。なぜか素材生成の仕上げに指を鳴らすことに拘っているお師匠さまは、雑な性格もあって、最後に盛大に失敗する。指を鳴らした途端、ほとんどのものを爆発させてしまうのだ。他は器用なくせになんで指が鳴らせないのか。
お陰で仲間内では「爆散の魔女」という不名誉な呼び名が広まっている。
本人はなぜか「禁忌の森の魔女」とか「恐ろしの森の魔女」とか呼ばれたがっているみたいだけど、「薬草の魔女」や「生成の魔女」の方がいいんじゃないだろうか。だって僕らに害をなそうとしなければこの森は恐ろしい場所ではなくなっている。
それというのも竜である僕に逆らう魔物はあらかた手なずけてしまっているからだ。だから僕が本体で森の上空を飛ぶようになってからは、町の人達からは「金竜の森の魔女」と呼ばれているらしい。
「レピは相変わらず美人だな」
大男がお師匠さまの髪をくしゃくしゃにしながら、その頭上から挨拶を寄越す。僕はこいつが心底気に入らないので、じたばたするお師匠さまを後ろから守るように抱き締めてそっぽを向いた。
こいつに美人なんて言われても嬉しくない。魔法使いほどじゃないけど、今では僕の方がお師匠さまより背は高いし、力だって魔力だって十分にある。
いつまでも子ども扱いされるのは腹立たしい。いつか変な帽子ごと巻き毛を毟ってやろうと思っているのに、未だに成功してない。いい機会だから真剣に考えてみようか。
そんな物騒なことを考えていた僕の前に、大きな影が二体、勢いよく滑り込んできた。
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