春のたまご
どうやら僕は獣人の王国の王子様だったようで、本当は長ったらしい名前があるけど、お師匠さまがつけてくれた「レピ」という名前の方が気に入っている。レピっていうのは鱗って意味。
竜人は人型の時は胸の辺りまで鱗に覆われていて、それは時々生え変わる。竜の鱗、それも金の鱗は素材としても優秀だし、高く売れる。お師匠さまは薬草や道具の知識が豊富で、僕の鱗も含め色んな物を加工して街で売っている。
魔女や獣人を迫害していた王たちの時代は終わり、正体を隠さなくなった今は街の人から「金竜の森の魔女」と呼ばれている。獣人も魔女も長生きだから、そんなに長い時間が過ぎたようには思えないのだけど、最近では獣人達も人間と平和に共存するようになった。
「春が来るわね。女神エオステラのお祭りをしましょうよ」
ある日、お師匠さまが言った。めんどくさがりのくせに、そういうことだけは好んでやりたがる。
具体的に何をするかと言うと、卵の殻をカラフルに色付けして飾るとか、それに因んだご馳走やお菓子を作って春を祝う。
春の女神に助けられた兎が春色に塗られた卵を贈り物にしたのが始まりで、女神はそれを歓び卵を春風と共に配って歩き、その際兎を引き連れて歩くようになったというものだ。
兎は多産、卵は復活・新しい命の象徴。あらゆる命が芽吹く春に相応しいお祭りだ。
「今年はちょっと趣向を変えようね」
僕が黙って頷くと、お師匠さまは悪戯っぽく笑って顔を覗き込んできた。ずっと声を奪われて生活していたから、時々声を出すのを忘れてしまうけど、何も言わなくてもお師匠さまには僕の考えが分かるみたいだ。
いや、全然分かってないのかもしれない。声を取り戻して以来、ずっと愛を告げているのに、彼女はそれを刷り込みによるものか「家族愛」だと思ってるんだ。
「何をするんですか?」
「ふふ、宝探しゲーム」
「宝探し?」
「そう。この森中に卵を隠したの。一番多く見つけたら、いいものあげるわ」
「いいもの……」
僕にとっていいものなんてお師匠さま以外ない。恨めしく見つめていると、僕たちの暮らす小さな家のドアがノックされた。
「ライバルが来たわよ」
「ライバルって?」
「宝探しはみんなやった方が面白いでしょ?」
嫌な予感がする。お師匠さまは弾むような足取りでドアに近づき、なんの躊躇もなく木の扉を大きく開け放った。
そこには、かつて共に冒険の旅に出た仲間の懐かしい顔が揃っていた。
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