お師匠さまは指を鳴らせない 2 ~金竜の森の魔女~

鳥尾巻

金のたまご

 僕とお師匠さまが暮らす森。金色の竜の森と呼ばれるこの森は、かつて恐ろしい魔女が棲むと言われた禁忌の地だった。

 実際のところどうなのかと言うと、めんどくさがりのお師匠さまが人の出入りを嫌って適当に流した噂が独り歩きしてただけ。


 炎のような紅い髪、翡翠のような翠の目、小柄な体は大人になる一歩手前の少女のよう。いつも同じ緑色のワンピースを着まわしてるのは、服を選ぶのが面倒だからだ。多分僕よりかなり年上であろうお師匠さまだけど、実年齢を尋ねたらきっとぶっ飛ばされるので聞かないようにしてる。


 子供の頃、悪い魔法を掛けられて、両親の元から攫われた僕は、盗人に売り飛ばされてお師匠さまのところにやってきた。

 悪い魔女に体中の色という色、声までも盗まれて、真っ白だった僕を卵から育ててくれた。なんで卵なのかってそれは僕が竜人の子供だったからだ。

 尤もお師匠さまは希少な竜の卵の殻が欲しかっただけで、最初から僕を育てるつもりはなかったみたいだけど。


 横着で気まぐれでめんどくさがりで、何かというと僕を材料に使いたがるお師匠さまだけど、僕はそれでも彼女の傍にいるのが幸せだった。

 色々あって本来の姿を取り戻した僕は、両親とも再会できて、今はお師匠さまと森に戻って一緒に暮らしている。


「レピは今日も美人ねえ」


 お師匠さまは僕の金色の髪を櫛で梳いて、今日も上機嫌だ。ずっと子供、いや、ペット扱いされてる気がするけど、それも仕方ない。僕はお師匠さまに買われた時から彼女のものだ。


 昔、僕に祝福を授けた精霊たちが言っていた。

 星を宿したような青い瞳を、流れる蜜の川のような金色の髪を、光り輝く丈夫な鱗を、金の竪琴が奏でる調べよりも美しい声を。

 この世を作りたもうた神々のように抜きんでた頭脳を、王さえもひれ伏すような強い魔力を、女神のように慈愛に満ちた優しい心を、この子が授かりますように。


 そんな願いを込めた僕の姿は、お師匠さまのお気に召しているようで。だから、不満があっても口には出さないよ。


 黙っているのは得意なんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る