3・居眠り
#20「ドア」「プリント」「ガム」
誰かが教室のドアを開けるたび、教壇に詰まれたプリントが舞い上がる。
廊下側の窓が開いていて、今日は風が強いせいだ。
「あれ、お前、何してんの」
忘れ物を取りに来たダチが、怠そうに自分の席に座る俺に気付く。
「うっせえな。居残りだ」
「あー、お前、数学サボってばっかいたもんな。そのプリント今日まで?」
「知らねえよ」
素直にやるなんて偉いじゃん、と言いながらふと顔を上げて、奴は教壇に詰まれたプリントの向こうの人影に気付く。
「あれ、委員長? 寝てない?」
「気が散るから早く出てけ」
ユニフォーム姿のダチはどっちにしろ急いでいたようで、すぐに教室を出て行った。俺はため息をつく。
口の中でガムを噛みながら立ち上がり、教室の隅に散ったプリントをゆっくりと拾い集めた。足音を立てないよう静かに教壇へ行き、山積みのプリントの一番上にそっと乗せる。
その脇ですうすうと寝息を立てて、教壇に突っ伏して、学級委員長の女子が寝ていた。伏せられた睫毛と、白い首筋を無防備に晒して。
全員分のプリントを集めて持ってきてくれと、数学科の教師に頼まれたらしい。HR後にぷらぷら教室に戻った俺は、放課後までに終われば間に合うからと、こいつに捕まった。
そんなもん適当に誤魔化せばいいのに、馬鹿じゃねえのか。こいつも、俺も。
俺は席に戻って、とっくに終わったプリントを前に、ガムを噛む。
サッカー部の掛け声や笛の音が、校庭側の窓ガラス越しに聞こえてくる。
差し込む日の光がオレンジめいて、教室の中が実際よりも温かく感じる。
もう一度プリントが舞ったら拾い集めて教壇へ行き、今度こそ声をかけて起こす。そうさっき決めたのに、なんで俺は、また椅子に座ってんだ。
笑い声を立てて誰かが廊下を走り去る。
味のないガムを噛みながら、俺は委員長のつむじを眺める。
<了>
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