感性

 紗良さらの中には、年齢相応の願望も、欲求も存在はしている。けれど、妄想にふけうれうような感性を、持ち合わせていない。ただ、この環境に身を置いていることで、攻撃性と破壊性が、助長されているような感覚はある。


 人間関係を築けないのなら、他の生物のように、捕食者ほしょくしゃ被食者ひしょくしゃの関係でいられるなら、どれほど楽か――。

 人類じんるい以外の動物どうぶつ昆虫こんちゅうは、近くで不用意ふよういに動くものを、獲物えもの認識にんしきし、捕食ほしょくする。同属どうぞくであろうと、らうしゅも存在する。ハムスターは、肉食動物にくしょくどうぶつではない。けれど自分が産んだ子を食べる。

 ありは、親である女王蟻じょおうありことなれば、共食いする。蟷螂かまきりめすは、おすえさと認識する。おすの頭を食べてから交尾こうびを始めたり、交尾こうび後におすを食べる。


 それに引き換え、人間の行動は特異とくいしたしくない間柄あいだがらにもかかわらず、安易あんい近付ちかづく。目的無く関わりを持ち、惰性だせいで〝友達ともだち〟というれをす。

 紗良さらも例外なく、初対面の同級生に『新しいお友達』として紹介され、学校という社会の中で、友達の輪に組み込まれる。


 がんは、自覚したときには手遅れだという。

 紗良さらは今まで、こんな生産性の無いことに、思考を巡らせることは無かった。考える価値が無いとわかっている思考に、脳内を支配されていると自覚してしまったから、もう手遅れ――。


 手遅れであることを受け入れた後、紗良さらの抑うつ状態が加速する。


 人間特有の行動――親身しんみりをして、おとしいれ、裏切る。うそく。

 自衛じえいや捕食以外いがいの目的で、同属を傷付け、殺める。詐欺、脅迫きょうはく、強盗、暴行ぼうこう傷害しょうがい殺人さつじん――いずれも、人間特有の犯罪行為こうい


 弱者の犠牲ぎせいの上に、強者きょうしゃが栄える。人間社会も一見いっけん弱肉強食じゃくにくきょうしょく法則ほうそくのっとっているように見える。

 しかし身体能力しんたいのうりょくではなく、努力ではどうにも出来ない〝環境〟により、優劣ゆうれつが決まる点が、他の生態系せいたいけいと異なる。

 例えば〝差別さべつ〟。個人の能力とは無関係に、優劣が決まる。有色人種ゆうしょくじんしゅを、白人に比べおとっているとし、迫害はくがいする人種差別。男性を優遇する男尊女卑だんそんじょひ。人種や肌の色、性別による多種多様な差別が、人間自身により設けられている。

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