第3話
「みんなあいつに甘すぎるぞ! ドジでのろまのくせに、飯だけはいっぱしに食う。すぐに村から追い出すべきだ!」
丘から戻り、家に入ろうとしていたナケアの足がぴたりと止まった。ハクサが力任せに卓を叩く音がした。ナケアが窓からこっそりと中をのぞくと、険悪な雰囲気の食卓が見えた。食卓には村長、ハクサの他にもう一人客がいた。
「あんたもそう思うだろ?」ハクサは酒を飲んでいる男に問いかけた。先日、ナケアをかばって代わりにキズを負った男だ。あの日以来村長は彼を息子の恩人だとすっかり気に入り、たまに食卓へ招いては蓄えておいた肉をおしみなくごちそうしていた。
ナケアは耳をふさごうとしたが、やめた。どんな罵詈雑言がとんでこようとも、それをきっちり受け止めるべきだと思ったからだ。しかし男の口をついて出たのは意外な一言だった。
「いや、思わない」
男はハクサを冷ややかに見た。ハクサはひるまずに言い返す。
「なんでだよ! あんたはあいつのせいでケガまでしたじゃないか!」
「見くびるなよ。このキズは俺の過失だ。ナケアのせいじゃない。ガキが足を引っ張るのは当たり前のことだ。いちいち礼を言う必要はない。それなのにナケアは後で俺に礼を言いに来たぞ。キズにきくという薬草をもってな」
「だけどあいつはあんたに嫌われたといってたぞ。にらまれたって」
「悪かったな。俺は目つきが悪いんだ」
ナケアは驚きに目を見開いた。勘違いだったのだ。勝手に嫌われていると思っていただけだった。村長がさとすように言う。
「もちろんお前のように狩りが上手いのも大事なことだ。しかしそれ以上に、ナケアのように相手の気持ちを考えることが大切なんだ。ハクサ、おまえにはそれが足りてない」
「うるせえ! あんたらが何と言おうと、俺はあいつを認めないからな!!」
ハクサは弓をひっつかみ、勢いよく夜の森へ駆け出した。帰ってきたナケアには気づかない。
「ハクサ! 待ちなさい!」
ハクサはおそらく夜の森へむかったのだろう。大人たちが血相を変え、急いで準備をはじめる。油をたっぷり塗った松明、弓、位置を知らせる笛。しっかりと装備を整えなければ、ミイラとりがミイラになりかねない。夜の森はそれほど危険な場所だった。
村長は戸口で呆けていたナケアにきつい口調で「絶対に外に出るな」と言い聞かせ、夜の闇のなかに消えていった。
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