迷子ちゃん

 半だらになった胡桃くるみ

 おこぼ履いて、身長底上そこあげしても、小柄こがらであることに変わりあらへん。ふくらはぎあたりまで、なごう垂れ下がったおびには、迷子なってもわかるよう、置屋おきやもんおおきゅう入っとる。


 紙を見ながら移動してるさまが、迷子まいごにしか見えへんことから、街の人らは〝迷子まいごちゃん〟と呼称こしょうするようなった。手にしとる紙には、お兄さんとの逢瀬おうせ場所が記されとる。逢瀬おうせと言うても、こっそり会うやましいことやなしに、〝ごはんたべ〟のこと。お兄さんが、食事代等の一切いっさい支払しはろうて、勉強のために料亭りょうていの料理や、接客せっきゃく体験たいけんさしてくれる、一般的いっぱんてき習慣しゅうかん。お兄さんが、お母さんの許可きょかを得られな出来ひんことやさかい、うてからのことは、全てお兄さんに任せてついていったらええ。

 とはいえ修行中の半だら一人を誘うことは出来ひん。便宜上べんぎじょう、姐さんの付きいとして呼ぶさかい、代金は二人分必要になる。胡桃くるみはお兄さんに、割高わりだかな代金支払しはろうてでも会いたいと思わせるほど、心をつかんどった。


 そやけれど、決して色は売らへん。

 なんかされても、抵抗ていこう出来る力はあらへん。おぼこい半だらの着物や、化粧けしょう乱れとっても、見習い中やさかい、下手や思われるだけ。それらを利用しようと考えて、してもうても、いっぺんだけは見逃みのがす。


 くぎすため、目ぇ合わせて一言だけ伝える。

「色を買いたいんやったら、姐さんだけ呼んだらええ」

 見習いについてくるような姐さんには、考える力あらへんさかい、さげすまれてることに気付けへん。

 ほんでもお兄さんが、再び魔差まさしてもうたら、すっと手ぇにぎってたずねる。

「お母さんに、なんぼで買うて伝えるん? 大事なもんやから、いろたらあかんえ」

 水揚みずあげ、するつもりあるんかちゅう問い。置屋おきやに、生活や芸に関わる多額たがく費用ひよう支払しはろうて、その対価たいかとして、舞妓ちゃんと男女の関係を結ぶ儀式ぎしき水揚みずあげ。そやから、水揚みずあげするか、問われたら手ぇ止めるて知っとる。あからさまに拒絶きょぜつする必要あらへん。

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