第42話 恩人の失脚

 ダニエルは都内の一軒家に僕を住まわせ,1週間に2,3度訪ねてきた。ひょんな切っかけから,ダニエルのボディーガードともただならぬ関係になってしまったが,彼は主人を殺してやると息巻いて出ていったきり,姿を消した。3週間ぐらい過ぎたある昼下がりだ。ダニエルがようやく情人を解放し,シャワーを浴びている際に偶々つけたテレビのニュースで東京湾に遺体の浮かんでいたという黒人男性の写真を目にした。ダニエルが異常に執拗になった理由も,僕との同居生活をはじめた理由も,妻子を捨てると言いだした理由も判明した。

 かつて僕を雁字搦めにした憂鬱な日々がひたひたと再び忍び寄ろうとしていた。僕は懇意になった外交関係者に,ザバイカリエで進行中の防衛機密事項をリークし,恩人の留守を見計らい,荷物をまとめて逃げだした。ダニエルは失脚した。

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