第41話 某特殊人種
車がホテルの前に横づけされてドアがあけられた。2人のボーイが頭をさげる。千代田の合図にボーイたちが退くと,千代田は僕を抱いて車を降りようとする。少しだけ正気に返り,絡みつく腕を振りほどいた。
ハリウッドで名を馳せる監督の来日パーティーとあって出席者の顔ぶれは豪華だった。
自然と心が華やいだ。それに久しぶりに千代田以外の人間と会話することで,廃人生活で鈍っていた脳の急速に覚醒するのが分かった。そうなると霧の晴れていくみたいに思考も明晰になり活性化しながら精神状態が正常に戻っていく。ああ,どうして議員崩れの所有物になりさがり奴隷以下の毎日を送ってきたのだろう! 別の空間にはこんなにも楽しい時間が流れていたというのに!!!
以前から好きだった女優の監督夫人とも,巡りあうのが運命だったように意気投合した。最高にハッピーな夜のはじまりに胸が躍った。
――だが,またもや千代田が邪魔をする。夫人と僕との間に割りこみ,2人だけで話をさせない。
夫人の興味はあっという間に千代田にもっていかれた。
それでも,僕は退屈しなかった。夫人の弟でもある,外交官をしているダニエルが痛快な男だったからだ。気も利く優しい人柄で,僕が会場の隅に立って1人で飲んでいると,料理を運んでくれたりもした。安心できた。加えて彼の語る,世界を股にかけた交渉秘話や冒険談は実に聞き応えがあった。
「これは某特殊な人種らしくてね――四六時中寝てばかりいる怠惰な連中なのだが,生殖能力だけは恐ろしく高い。どうやら生来個体中に麻薬と似た成分の快楽物質が備わっているそうで,それをあのときじわじわ分泌しつつ相手を虜にしてしまうのだって……」
ダニエルが突然黙りこみ,僕を見つめる。僕も彼の青い瞳を見つめ返した。
「千代田お抱えのドクターはすごく有能らしいね……僕も,診てもらいたいのだけれど……」
――――――なんだ,そういうことかよ。
忽ち何もかも面倒くさくなったが,ダニエルについていけば,千代田の支配する領域に戻らなくて済むかもしれないという期待もわいた。
誘いに乗って彼の部屋に泊まり,千代田から匿ってくれるよう頼んだ。
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