第38話 甥の失踪

 御歌の相談はかなり深刻な内容だった。甥の幸一が失踪したらしい。幸一は転校した全寮制高校の生活に早く慣れるために,夏休み期間中から寮に入り,実家に帰らず休暇を過ごす同級生たちとの共同生活を送っていた。失踪原因は今後の調査で明らかにされるが,恐らく人間関係のトラブルだろうと教師は言ったとか。

 幸一が姿を消して,7日が経つ。学校関係者や千代田の手配した人間が昼夜を徹して捜索を続けているが,依然として朗報は入らない。

 強い態度で千代田を突っ撥ねた。

 3日前に気絶して丸1日眠り続けた。

 千代田は昨日だけ紳士的に振る舞っていたが,今日はどうしても病気のもとが疼くらしく,世界中から調達したクリームだのジェルだのローションだのを並べたて,土下座までしながら,執拗に絡みつく。甥が発見されたらなどとはぐらかしてみるが,敵も腫れ気味の鬱血したみたいな顔面に脂汗を浮かべつつ,その方面の言葉だけ早口に呟いて苛々を募らせている。ぞっとした僕は呼吸困難を演じ,中毒患者を仕事へ行かせた。

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