第36話 くれてやる!

「栄にとめられたんよ――放っとけって」

 視線の応酬を交わした。

「僕から話しとこか? 僕の言うことやったら,なんでも聞くよ」

「ええ――」

 御歌は椅子から立ちあがった。

「華観ちゃんが口を出したら,まとまるもんも,まとまらんけん。昔から,ほうやったじゃろ」

 そう言ってキッチンを出ていこうとするが,また立ちどまる。

「男の無職って恐いね……なんでもありの底辺まで落ちるんじゃけん。天国のパパとママが泣いとらい!」

「自分だって一緒やんか! 千代田を誘惑して!」

 御歌が戻ってきて,僕の頰を叩いた。

「下品な物言いせんといて!」

「事実じゃろうが! おまえは,なんでも,僕のもんを欲しがった。今度も横どりするつもりか!」

「この疫病神が!」

 御歌が組みついてきた。僕らは揉みあってテーブルにぶつかり,レトルトの米をばらまいた。

「なんするんよ! もったいないやんか!――」

 御歌はうずくまって米粒を拾いはじめた。その姿は小さく,恐ろしく惨めで,僕は見ていられなかった。

「よせ,ほんなん構うな!」

 僕は御歌を立ちあがらせようとしたが,手を払いのけられる。

「ああ,拾え,拾え。汚い米でも食うたらええわい――ついでに千代田もくれてやらい!」

 御歌を残してキッチンを出た。

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