第29話 裸心の悲鳴

 御歌はベッドから腰をあげ,壁にむかって立った。

「あんなに本気にさせる前に,こっそり逃げたらよかったやん。ほやけど手遅れじゃね。一生,慰みものでおり」

「黙れ,やめろ!」

「みんな,我慢しとるんよ!」

 御歌はむきなおり,歯を剝きだして怒鳴った。

「子供とか親とか兄弟のために,拷問みたいな結婚生活に耐えて,ストレスの掃き溜めになっとんじゃけん!」

 妹が何かを訴えかけた。裸の心の発した悲鳴のような気がする。それをしっかり聞きとり受けとめたいと思った。御歌を見つめる。すると部屋を出ていこうとする。御歌を追いかけた。

「くさいよ,華観ちゃん!」

 御歌は鼻と口とを手で覆った。

「シャワーぐらい浴びて。ほんなに臭いのに,よくもまあ……先生を大事にしたほうがええよ。それに妹の嫁ぎ先が政治屋ってことを忘れんといて。華観ちゃんが先生を怒らせたら,妹の家庭にまで迷惑がかかるけん」

 御歌はアルコールの摂取を禁じた後,しばらく千代田邸に滞在することを告げ,部屋を出ていった。

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