第28話 妹に喋られた

「いい加減,目ぇ覚まして」

 御歌が僕を見おろしているのだった――

 夢を見ているのだろうか。それとも,ついにおかしくなってしまったのだろうか。

「ガンバロウ会ってゆう政治の勉強会があるんよ。地域の議員と,中央の議員との意見交換会みたいな……。そこで偶々会ったんよ,澤渉さんってゆう人に」

 顔面が恐ろしく火照り,煮え滾った血液が全身を駆け巡った。

「華観ちゃん――」

 御歌がベッドに腰かける。

「悪いことないやん。外国では普通やもん――同性婚ってやつ?」

 喋られた。不道徳も汚穢おわいも何もかも全部。妹が全てを知っている。もう終わりだ。完全に終わりにしてやる。

「いかんよ。冷めたけんゆうて邪険にしたら。テレビで見たとおり,ほんと,ええ人じゃねぇ――千代田先生って」

 千代田にも会ったのか!? 千代田がよけいなことを言ったのか。一体何をふきこんだ。

「先生,打ち明けてくれたんよ――薬のことも。仕事の悩みとかで,脱法ドラッグに手ぇ出してしもたんじゃと。ただね,華観ちゃんには飲ましてないって」

 また,そんな噓を。ならば,あの意識の昇天はどう説明がつく? 口移しか何かで薬の成分が僕の体内に入ったとでも言うのか。

「薬のことは許してあげて。先生も金輪際手ぇ出さんて言よったよ。華観ちゃんとの将来のために」

「やめてくれ」

「華観ちゃん?」

「僕は騙されとったんよ。何遍もこんな仕事はやめようとしたけど,あいつに脅された――妹に喋るって」

「私のせいにするん?」

「え……」

「いっつも人のせいにするんは,やめて」

「御歌ちゃん――」

「私のせいやない。先生のせいでもない。華観ちゃん自身で蒔いた種やん。華観ちゃんの蒔いた種でいっつも周囲が不幸になるんよ。華観ちゃんは疫病神じゃけん」

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