第25話 妹の非難
恥ずかしくて外を歩けない。華観ちゃんはうちの疫病神よ。双子の妹の
通夜の日に会った御歌はやつれていた。丸っぽく愛嬌のあった顔だちは顎が尖り,眉間にできた皺のせいなのか,神経質で,余裕もなく,攻撃性剝きだしの印象を与えていた。希望に溢れた,人懐っこい,くるりとした瞳もいつのまにか力なく陰りを帯びて,若々しく血色のよかった瞼も肉がそげて青白く険を帯びていた。おんぼらと毛の多かった眉もおっとりした性格を映すようでかわいかったのに,弓形に整えて虚勢を張っているみたいだ。腰まで達する艶々した黒髪をばっさり切って,ウエーブのかかる耳丸だしの赤茶けた短髪にかえたのもまるで似あっていない。
「色んな人が華観ちゃんのことを悪うに言うんじゃけんね――市議会議員らは特に。ライバルの弱みに付けこんで,蹴落とすつもりなんよ」
自分が切れ者でなければ,とっくに議員をやめている。妻の兄のせいで苦労させられると,エリート夫は毎日愚痴をこぼすのだという。
「全部,華観ちゃんのせいなんよ。これ以上,迷惑かけんといて。なんで,華観ちゃんがおったら,みんなが不幸になってしまうん? お願いやけん,どっかへ行って。土地も財産もなんもいらん。全部,華観ちゃんにあげるけん。ほやけん面倒なんか一切見んよ。お食事やお掃除をママから頼まれたけど私はいやよ。華観ちゃんにはかかわりたない」
低い早口の調子で一方的に喋り,御歌は2階の部屋に僕を押しこめた。兄は東京で芸能人のホームドクターをしていて今は連絡がとれないことにしてある。そう告げるなり,ぴしゃりと戸を閉める。
御歌ちゃん――と手を伸ばした。
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