第22話 地底から現出した幻
地下廊の天井は所々に硝子が嵌められ,天然採光の工夫が施されてある。快晴の日には適度な明暗を演出するが,曇りや雨の日には殆ど光は入らず,とりわけ廊下の西側,それは地下2階の貯蔵庫へとおりる階段に続いているのだが,そちらは闇に支配される領域なのだった。そんなところにいつの間に潜んでいたのか,恐らく,澤渉も僕と同様に,その時点まで気づかなかったはずだ。何故なら,地上1階から地下1階におりるためには,廊下の東端にある階段をおりてくるか,やはり,廊下の東端にあるエレベーターを使用しなければならないからだ。つまり,そこに
「また脱いじゃったのかい」
千代田はふわりと浮かぶみたいに地下1階に歩を進めた。
「俺以外の前で脱ぐなと,あれほど言ったのに」
そうだ,全裸のままだった。朝,修羅場を演じた後は何をする気もしないで,そのままベッドでごろごろしていた。
「国会を抜けてこられたんですか」
おろおろした調子で澤渉が問うた。
「血で体が汚れてる」
千代田は澤渉の言葉に反応を示さず,僕を見ながら近づいてくる。
「けがした手が使えない? 俺が洗ってやる」
反射的に澤渉の背後に隠れた。
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