第20話 救済する力

 錯覚かもしれない。地下の廊下に風の吹いた気がした。それによる意識の散漫がなければ,澤渉の圧力に屈していただろう。僕はようよう声を振り絞った。

「こんな仕事はやめさせてもらう。もう決めたことじゃけん」

「お考え直しいただけませんか」

「悪いけど……」

「お願いします。お願いですから――」

 僕は頭を振った。

「先生がお気の毒です」

「ほんなに言うなら,あんたが相手になったらええ」

「できるなら,とうにしています」

 澤渉が一歩詰め寄り,僕は一歩後退りした。

「でも,先生にとって,私はそういう対象ではないようです……」

 澤渉は長身のスマートな体を歯痒げに揺らし,大きな目を曇らせた。

「私には,先生をお助けする力がないんです。でも,あなたには――」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る