第14話 社会との隔絶を恐れて

 慰安夫契約とかいう書類は21枚にも及んでいた。

 「噓をつくは罰金壱百万」から「本契約の一部あるいは全部を口外するは生命保護の保障なし」まで,夥しい数の取り決め条項が細かな文字で印字され,最終頁の右下隅に「1日1度は食事を共にする」という手書きの文字が認められた。

 千代田とテーブルを挟んでいると,必ず意識が飛んだ。気づけば,暗闇のなかに疲労困憊した体と隣に眠る千代田の存在がある。

 罪悪と屈辱と羞恥と嫌悪に我を失いそうになり,それでも社会との隔絶を恐れて唇を噛みながらシーツに紛れた下着を探し,飼い主の出勤準備にとりかかる……

 ボディソープのにおいが部屋に充満していた。窓をあけると,遥か彼方に鯉のぼりの揺らめくのが見える。

 バスルームを出てきた千代田はいつものようにすっきりした顔で身支度しつつ多弁を弄している。

 僕は資料の整理をしながら千代田の出勤後に1人ゆっくり食べるつもりの高級プリンのことで頭がいっぱいだった。

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