第12話 去る男
千代田に家に入ろうと言われ,車をおりた。
硝子細工に似た桜の木から花吹雪が舞って光の反射を受けながら人の上に降る。
玄関の格子戸がひらき,小柄で小太りな男が段ボール箱をかかえ,あたふたと石段をおりてくる。男は段ボール箱の陰から赤みを帯びた顔を覗かせ,僕を値踏みするみたいに見てから,澤渉にむきなおる。
「ほかの荷物は送ってくれよ,一つ残らず,全部,きっとね」
澤渉が軽く頷き,男のそばに近寄って,ずっと低い位置にある男の耳に何か囁く。男は弾かれたようにのけぞるなり,甲高い声を発して捲したてた。
「分かってるってば,分かってる! 何度も聞いたから! 他言無用でしょ! 言うとおりにしますよ! どんな目に遭うことやら!」
それから,極小の目玉を眼瞼にうずめて意地悪そうに笑う。
「10日経てば,全部分かるさ。長くて2週間。3週間とはかからない」
千代田が澤渉を呼び,懐から黒いものをとりだして渡した。
「送ってあげなさい」
「しかし,
千代田は僕に一瞥をくれてから,澤渉を見おろし,明日にしようと目配せをした。
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