第5話

 オーゼムはアリスに向かって真顔で急にしんみりと言いだした。

 パチリっとこのサロンの暖炉が弾けた。


「これは聖痕現象ですよ。新約聖書のガラテヤの手紙で聖パウロが聖痕をイエスの焼印と言われています。恐らくこれから何か大きなことが起きる前触れでしょうね。モート君。今日は失礼して私はもう帰ります。いやはや、かなり疲れましたねえ」

「ああ。ぼくは今夜は狩りをしてくるよ」

「そういえば、アリスさん。ここまでモート君があなたを運んでくれたのですよ。死人を狩り終えてから早々にあなたを探してね。聖パッセンジャービジョン大学中をくまなく探してから。あなたは石階段の傍のベンチで横になっているのを発見しました。ご友人のシンクレアさんが介抱してくれていたんだそうです」 


 それを聞いてアリスはサロンの暖かさも相まって頬と目頭が熱くなった。


「本当にありがとう。モート。もうなんともないです。私も今日は帰りますね」

「それは良かったよアリス……お休み……」

 モートは抑揚のない声で言うと……。

「これから忙しくなるな……」

 暖房の行き届いたサロンで、モートは独り言を呟いていた。

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