第25話 ルシアとザカリー

「ルシアの振りをしているが、俺が真面目に勉学に励んでいる。それだけで、何かと融通が利くようになったんだ」

「まぁ、それだけお父様に心配をかけていたんですね。お母様もいらっしゃらないから、余計に」

「お前は気にするな。元気になれば、以前のようになる」


 口が悪いザカリー様だけど、ルシア様に対してはいつもお優しい。

 双子だけど、兄と妹と位置づけているせいだろうか。


 はい、と笑顔で返事をするルシア様の頭を、もう一度撫でる。

 束の間の光景に、私とリノが癒されていると、その視線に気づいたらしい。

 こちらを向いた時のザカリー様は、普段よりも眉間に皺を寄せていた。


「つまり、言うとだな。ルシアが完治するまでは、ディアス公爵家がサポートをする、ということだ。あと、謝礼として、アカデミー在学中のフォローもしよう」

「それは有り難いのですが、ザカリー様の一存で決められるのですか? いくら融通が利くといっても」


 さすがに在学中というのは破格すぎると、私はリノと顔を合わせた。

 リノも二回頷いて同意する。


「さっきルシアにも言ったが、病が治れば母上も戻る。俺もまた、“ザカリー”にな。そうなれば、三対一だ。父上とて反対はしないだろう」

「そうですね。私も微力ながら、説得に協力します」

「ルシアはその調子で、父上よりも発言権を強くしなければな。土台は俺が作ったが、それを使いこなせなければ意味がない」


 そうだった。病が治っても、王子の婚約者候補という問題は解決していない。


「大丈夫です。これからは私がお兄様をサポートできるくらい、強くなってみせますから」


 両手を握りしめ、胸の前で揃えて言うルシア様の姿があまりにも可愛らしくて、思わず微笑んだ。

 恐らく、ザカリー様とリノは同じ表情をしていたのではないだろうか。


「もう! 私は本気ですよ!」


 頬を膨らましたルシア様は、私の元へ来て両手を掴んだ。


「ねっ! アニーだって、私がお兄様をサポートしている姿を見てみたいでしょう」


 成人したザカリー様とルシア様が並んでいる姿を想像したら、さらに目元が緩くなった。


「そうですね。見てみたいです」

「ほらっ!」


 何が『ほらっ!』なのかは分からなかったが、その姿すらも微笑ましい。


「ではお祝いに一曲、歌わせてもらいましょうか」

「まぁ、いい提案だわ、リノ。是非、あの歌をお兄様にも聞かせてあげて」

「畏まりました」


 いやいや、ダメでしょう。あんな恥ずかしい歌詞、ザカリー様には聞かせられない。


「ザカリー様。その……散歩に行きませんか?」

「散歩? しかしだな……」

「遠慮せずに、アニタと散歩に行かれてはいかがでしょうか。どの道、ルシア様が治るまでは、いつでもリクエストにお答えできますので」


 答えなくていいーー!!


「そうですよ、お兄様。アニタと行ってきてください」


 さらにルシア様にまで言われて、ザカリー様は困った顔をこちらに向ける。


 お二人が揃う場面を見ていなかったから、あまり気がつかなかった。

 どうやらザカリー様は、ルシア様に弱いらしい。いや、そもそもルシア様の振りをしているのだって、そういう理由だった。


「ささ、参りましょう」


 私はザカリー様の肩を掴み、扉の方へ体を向けた。

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