第24話 レルシィ病の正体

 一つ、食料不足。

 これにより、レルシィ教会が運営していた孤児院の子供が、独自に食料を調達したのが原因だった。


 子供故、教育不足も重なり、食べて良いものと悪いものの区別ができずにいた。

 けれど、空腹に耐えられなければ、食べられない草だって食べるしかない。


 そう、毒に用いられる草を誤って食べてしまったのだ。

 幸いにも、それは即死系のものではなく、徐々に弱らせる毒に使われる種類のものだった。


 だから、子供たちも気づかずに食べた。何日も。他の食べ物と一緒に……。


 普通の食事でも食べ合わせの良いもの悪いものがあるように、子供たちの体の中で、毒は次第に変異した。

 それがレルシィ病の始まりである。


 二つ、栄養不足。

 食料不足ということは、自然と栄養不足も引き起こす。これから体を作っていく子供なら、尚更大事なことだった。


 バランスの良い食事など取れない孤児院の子供たちは痩せ細り、体力も次第になくなっていく。

 そんな中、発生したレルシィ病。

 女の子にのみ発症したのは、単に男の子より体力がなかったのが原因だったらしい。


 故に、レルシィ病の治療とは、きちんとした栄養、体力が備わっていれば、発症しない、ということだ。

 元々感染力は強くないため、これらを知っていれば予防できる病だった。


 それなのに発症してしまったルシア様は、噂通り、体が弱かったからだろう。


「ですが、こればかりは一朝一夕いっちょういっせきにはできません。焦らずにいきましょう」

「だけどアニーやリノは、アカデミーに帰ってしまうのでしょう」

「それは……」


 ルシア様の寂しそうな顔に、私は言葉を詰まらせる。すると、後ろからやって来たリノが、私の首に腕を回してきた。


「大丈夫ですわ、ルシア様。このアニタはアカデミーでも優秀なんです。しばらくここにいても、取り戻せるほど。生憎、私は無理そうですが」

「まぁ、そうなの? なら、アニーはすぐに帰ってしまうわけではないのね」

「公爵様……ではなく、ザカリー様にお願いすれば、何とかしてくださると思いますわ」


 私越しに話を進めるルシア様とリノ。


「ちょっと、勝手なことを言わないで」

「いいじゃない。望んでくださっているのよ。光栄に思わなくちゃ」

「でも、私たちの本業はアカデミーの学生なのよ」

「そこは問題ない。父上と話はつけているからな」


 扉が閉まる音に顔を向けると、いつもと同じ気だるい表情をしたザカリー様が目に入った。


「さすがはお兄様。話が早いです」


 嬉しそうに駆け寄るルシア様。

 今は夜中ではないため、ザカリー様の姿は女の子である。

 同じ顔をした、白いワンピースと深緑色のワンピースをまとった二人が向かい合う。


眼福がんぷくね」


 リノの呟く声に、私は大いに頷いた。


 ただでさえ可愛らしい二人なのに、一緒にいるだけで頬がゆるむ。

 さらにルシア様にしか見せない、柔らかな表情のザカリー様。頭を撫でる姿なんて、眼福といわずになんというのか。


「どのようにお父様を説得したんですか?」

「家庭教師を増やしたのは知っているだろう」

「はい。リノが来た時に、カモフラージュとして何人か雇ったと」


 そう。再びアカデミーの学生を家庭教師に雇うのはリスクがあった。

 ディアス公爵家とアカデミー。それぞれの評判と繋がりを疑われる恐れが発生するからだ。

 それを回避するために、評判が良く、口も硬い家庭教師が呼ばれることとなった。


 ザカリー様が本来の姿に戻った時のため。遅れていた勉強もまた、取り戻す必要があったのだ。

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