第22話 風浪の魔女からの手紙

 ◆◇◆


 ごきげんよう、星読みの魔女。

 恐らく、初めましてではないと思うの。

 大丈夫。間違ってはいないから。だって私は風浪ふうろうの魔女。

 貴女、いえ、アニタと同じ読む者。

 まぁ、私の場合は風だけど。

 それで昨夜、貴女が星を読んだのが分かった。位置もね。


 だから、この手紙を夫、ドルーに渡したんだけど……。

 ちょっと彼、魔女オタクだから気をつけてね。


 ◆◇◆



 気をつけるって? 魔女オタクって?


 どういうことですか! 風浪の魔女!


 手紙を読んだ直後、私は顔を上げて、そのままドルーを凝視した。

 すると、何故か意図が伝わったらしい。にこりと微笑まれた。


 私は辺りを見回し、いつの間にか椅子に座っていたザカリー様の傍へ行く。そのまま後ろに回り、その小さな肩を掴んだ。


「どうした、アニタ」

「いえ、その……」


 何と言えばいいんだろう。すると、ザカリー様は腕を上げて、後ろにいる私に向かって手のひらを見せた。


「寄越せ」

「え?」

「見ても構わないのなら、寄越せと言っているんだ」


 矛盾した言い方だったが、この状況を打開するには、渡すのが得策だと思った。


「なるほどな。アニタが怖がるのも無理はない。ドルー。今後、アニタに用がある時は俺を通せ。いいな」

「妻からも怖がらせるな、と言われていますので、そのように致します」

「これでいいか、アニタ」

「ありがとうございます」


 さらに安心させるように、肩に置いた手を優しく叩く。


 五歳年下の、まだ幼さの残る少年に慰められるなんて、と思ったが、安堵したのも確かだった。


「ザカリー様。そう言った矢先で申し訳ないのですが、妻から星読みの魔女にお届け物がありまして。お部屋に運んでもよろしいでしょうか」

「届け物?」

「はい。けして怪しい物ではありません。薬草ですから」


 ここで風浪の魔女から薬草……ということは。


「もしかして、ルシア様の薬に使う物ですか?」

「その通りです。星読みの魔女は薬に長けていると聞きましたが、やはりそうでしたか」


 誰に? とは聞かなくても分かる。

 お祖母様はそれで生計を立てていたのだから、風浪の魔女が知っていてもおかしくはない。


「確かアニタは、アカデミーで薬学を専攻している、と言っていたな」

「山奥で暮らしていましたから。薬を調合するお祖母様を手伝っている内に、私も自然と薬草に詳しくなりました」

「そうか。つまり今までのように、ルシアの薬が切れる心配がなくなる、というわけか」

「薬草の手配なら、妻でなくとも私がいれば可能ですから、そうなります」


 それってつまり、ルシア様の治りが遅いのは……。


「薬が足りなかったということですか?」

「はい。妻は各地におもむいているため、ルシア様を優先するわけにはいかないのです」

「……魔女とは、そういうものですから」


 特別扱いはしない。相手が王であろうが貴族であろうが。そういう決まりだ。

 例外があるとするならば、身内に対してのみ。


 今回は、私がいるから少しばかり優先してくれた、と解釈していいのだろうか。


「分かりました。有り難く使わせてもらいます、と奥様にお伝えください」

「では早速、お部屋に運ばせてもらいます」


 そう言ってドルーは部屋から出て行った。

 扉が閉まる音を聞き、ふとある考えが浮かんだ。


 魔女の身内ならば例外……だったら、彼女を呼ぶことができるのではないだろうか、と。

 うん。これならルール違反にはならない。


「ザカリー様。お願いがあるのですが」


 そう昨夜、星が教えてくれた『アカデミーへ』という言葉を思い出したのだ。

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