第21話 星読みの魔女とは

「星読みの魔女?」


 ドルーの言葉に反応したのは、私だけではなかった。ザカリー様は鸚鵡おうむかえしをして尋ねる。


 しかし、答えたのはドルーではない。


「……大層な名前ですが、占い師みたいなものです」


 私はすぐに弁明した。

 ザカリー様は私が魔女だということは知っていても、どんな魔女かは知らない。

 私の力を利用することはないだろうけれど、変に追及されるのは嫌だった。


 だって、『星読みの魔女』って恥ずかしいし、そもそも私には似合わない!

 こういうのは、お祖母様のように怪しげな雰囲気も持っている人物とか。あとは美女とか、そういう魔女に相応しいと思うから。


 絶対、嫌みを言ってくるに違いない。


「何を言うんです。妻の話では、予言のようなものだと」


 人の通り名をバラされた上に、このドルーという男は何を言うんだろうか。


「違います! 違いますからね、ザカリー様。私が読むのは、天気を当てる程度のもの。それよりも、この仰々ぎょうぎょうしくて、しち面倒臭めんどうくさい通り名を知っている奥様というのは、魔女なんですか?」


 私はさりげなく、話題を本来の道筋へ戻した。

 しかし、見逃してくれるザカリー様ではなかった。


「ドルーの妻が魔女だというのは本当だ。ルシアの薬は、その者から得ている。が、その星読みの魔女というのはどういう魔女なのだ、ドルー」

「聞く相手をお間違えではありませんか?」

「いや、そんなことはない。どうせアニタは答えるつもりなどないのだろう」


 ひ、否定はできない。


「今朝、妻から連絡を受けて初めて知ったので、詳しいことは」

「構わない」


 構います!


「星読みの魔女というのは、とても気まぐれで。依頼しても、読んでくれないそうです」


 依頼したからといって、その人物が受け取るメッセージではないことが多いから、結果的にそうなってしまうだけで……。


「しかしその内容は、国家レベルのものだとか」


 え? 誇張されていない? 養父なんて、ダイヤモンドの山だよ?


「今朝から雨が降っているのは、星読みの魔女が星を読んだからだ、と妻は言うのですが、本当ですか?」

「……」

「アニタ」

「……事実です。が、私は未熟者なので、読んでもその意味までは分かりません」


 どういうことだ、と言わんばかりに、ザカリー様は顔をしかめた。


「星はただ教えてくれるだけなんです。それが何を意味しているのか、誰に必要な言葉なのか。後になって、ようやくその事実を知る。私がする星読みとは、そのようなものなんです」


 だから、大したことではないのだ、と告げた。


「それよりも、本題をお忘れではありませんか? ドルーさんを呼んだのは、ルシア様のためですが、ザカリー様のためでもあるんですよ」

「俺の?」

「はい。まさか、ずっとルシア様の代わりをなさるつもりですか?」


 察しの良いザカリー様は、私の意図に気づいたのか、罰の悪そうな顔をした。

 そう、成人した後も女装をするんですか? と聞いたのだ。


「私はザカリー様の、成人なさった姿を見てみたいです。勿論、公爵様になられるところも含めて」

「……分かった。特等席で見せてやる」


 いえ、そこまでしてもらわなくても、と思ったが、黙って頷いた。


「それでドルー。ルシアの病状は、お前も把握しているのか」

「星読みについて、話を聞いてみたかったのですが、仕方がありません」


 残念がるドルーの姿に、少しだけ怖くなった。が、ここで引くわけにはいかない。


 さりげなくザカリー様の近くへ寄り、ドルーの言葉を待った。


「私自身は把握しておりません。妻がふらっと帰ってきた時に、ルシア様のところへ繋いでいるだけで」

「そうか」

「けれどご安心ください。公爵邸に星読みの魔女がいると知った妻から、手紙を預かっておりますので」


 そう言ってドルーは、懐から出した手紙を私に差し出す。


 相手がどんな魔女かも分からないのに、受け取れというの?


 渋る私を見て、ザカリー様はドルーから手紙を奪い取った。


「この魔女には俺も会ったことがある。大丈夫だ。何も問題はない」


 スッと差し出された手紙とザカリー様を交互に見る。

 真剣な眼差しで頷く姿に、私も覚悟するしかなかった。

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