第15話「強大な魔力の代償」

「魔力コントロール出来ないんだよね……」

「……はい?」

「だから、魔力、コントロール出来ないの」

「……なんで」


 想定外の答えで脳の理解が追いつかなかった。魔力のコントロールが出来ない、つまりは魔術が使えない。確かに出鱈目な詠唱を唱えていたが、あの呪文であの火力、明らかに魔力をコントロール下に置いていなければ出せない。


 いや、逆に出しっぱなしにしか出来ないとしたら。

 魔力量が人の何十倍、何百倍もあり、それの放出しか出来ない。最小か最大かしかツマミがなく、その中間となる魔力が使えないとしたら。

 出鱈目な詠唱で魔術が使えている理由がわからないが、魔力のコントロールが出来なくても、魔術の使用の方にスキルツリーが伸びているとしたら理解出来る。


「なんでって、出来ないんだもん」

「だもんって……」

「私、小さい頃から魔力が多かったから、お母さんがね。抑え方を教えてくれて」

「私は魔術が使えるようにはなりたくなかったなら、抑制だけでいいと思ってたんだけど……」

「……なるほど、わかりました」


 魔術を使う時、始めは魔力の増幅から始める。段階的に使える量が増えていき、その過程で魔力のコントロールを学習する。教わらなくても覚えていく。

 しかし、彼女にはそれがない。

 始めから高い魔力が使えたからこそ、この過程を踏むことがなかった。おそらく、彼女のお母さんは、魔王に見つからないためにも魔力を全て抑える方法を教えたのだろう。

 それからは彼女のエゴで能力を伸ばさなかった。その結果としてこうなっている。


 この状態で僕はどう訓練すればマルファクさんのお眼鏡に叶うだろうか。

 まずは最低限のコントロールを覚えてもらう必要がある。この場合の最低限は労力上の最低限としたら、最大から段階的に最低に近付けていくのが最も容易い。

 しかし、ラブグッドさんはチヤホヤされたい。それに、急に高火力魔術が使い始めたとなるとパーティメンバーからの目が怖い。その時にリカバリーするのは僕になってしまうだろう。めんどくさいからそれは避けたい。

 となると魔力を弱くコントロール出来るようにすることからだが……どうすれば効果的だろうか。


「……私、戦わなければいけないの?」

「それは……」


 肯定すれば面倒くさくなるのが目に見えている。否定したら「じゃあやらない」と言いかねない。

 このはいといいえで答える問いの答えは第三選択肢だ。


「いえ、その間です」

「間?」

「ラブさんは戦いたくない。マルファクは戦えるようになって欲しい」

「なら、その間で入ればいいんです。」

「最初は援助や自衛は出来るようにして、少しづつ、戦えるようになれば、みんな驚くと思いますよ」

「チヤホヤされるし褒められると思います」

「……そうね」


 すぐに飲み込むのが難しいのか、彼女は自分の服の裾を掴んで俯いていた。

 しばらくして、彼女は視線だけを僕に向けると「私はね」と弱々しく呟いた。


「私は女の子としてチヤホヤされたいの」

「だから、チヤホヤされたいだけじゃなくてね……守られたいって言うか」

「大丈夫です。魔術師は後衛職です。守られます」

「そうじゃなくて……」

「それに、女性の魔術師は多いですよ。何なら男性の方が少ないくらいです」

「そうじゃなくてぇ……」


 彼女の言わんとすることは分かる。しかし、多少は無理でも押し通さなければ、僕もラブグッドさんもこのパーティには居れなくなってしまう。彼女と僕は一蓮托生、どちらかが引けば二人とも追放されてしまう。

 自分のためにも引けない。


「……こだわりを捨てなければパーティに居れなくなります」

「パーティに居れなくなるのは困りますよね」


 別のパーティに行くからいいと言われればそれまでだが、勝算があった。

 彼女は恐らくマルファクさんに気がある。魔術壁を解体した時に言っていた「マルはなんであたしを……」と言う言葉、さっきの勘違いの反応、彼女がパーティに居るのはマルファクさんが理由であることは容易に想像出来る。それを使わない手はない。


「……そうだけど」

「それに、少しでも戦えるようになればマルファクからも褒められると思いますよ」

「そ、そう?」

「そうです!」


 相手の反応を見るに少しづつ風向きが変わってきている。魔術を使えるようにするメリットは提示した。後は彼女の中にあるだろう「本当にできるのか」という不安を拭い去るだけ。


「僕が完璧にサポートします。疑われないように訓練を調整します」

「ですから、僕と共犯関係になりませんか?」

「……そうね」


 弱々しくなっていた彼女の目に力が灯った。今日、小路地で呼び止められた時のような、溌剌とした強さを持った瞳を僕の顔に向け、力強く肩を掴んだ。


「わかったわ!」

「私のプロデュース、あんたに頼むわ」

「これからよろしくね。共犯者くん」


 心底、面倒くさいが、何はともあれ僕の首の皮が繋がった。これからどのように訓練するべきかは、これから決めていこう。

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