第13話「強い女の腑抜けた声」

「それで、あんたを呼び止めたのは他でもないわ」

「勇者の話よ。あんたがパーティに参加する中で守って欲しいルールがあるの」

「……なんですか」

「わかってると思うけど、あんたは私の正体を他言厳禁よ。バレたと思ったら燃やすわ」


 冗談には聞こえないし、冗談を言う顔もしていない。ラブグッドさんは他の男子陣と話す時は笑みを浮かべタレ目を装っているが、本当はつり目らしい。その鋭い瞳から放たれる虫を殺すほどの眼光に、コミュ弱の僕が勝てるわけがなかった。


「わかってます」

「それでね。探索の時は出来る限り私を守ること、私は守られたい側なの」

「……あの」

「何?」


 真っ直ぐに顔を見られるとなおのこと怖い。

 マルファクさんからの頼みを伝えるとしたら今のうちなのだ。今のうちなのはわかるが、どうしてもこの顔に睨まれると動けない。遠回り遠回りに話をしよう。


「ラブグッドは何でそんなに守られたいんですか?」

「つか、何で呼び捨てなの?」

「マルファクに……」

「あ〜、そういうことね。あんたに呼び捨てされるの腹立つわ」

「私はラブさんで」

「……わかりました」


 面向かって腹立つと言われても何も感じないんだ。

 明らかに舐められているが、舐められても仕方ない力関係だ。歳としてはラブグッドさんとそう変わらないはずなのに、どうしてこんな力関係が出来てしまったんだろうか。性格だろう。


 しかし、マルファクさんからは呼び捨てにするように言われているのに、ラブグッドさんからはさん付けを強要されてしまった。あだ名とさん付けだから、帳消しになって呼び捨て認定されないかとか考えたが、無理そうだ。


「で、なんだっけ」

「あ、何でしたっけ、あ、そうです」

「何でそんなに守られ……あ、いや、こっちがいいか」

「ん?」

「マルファクがラブさんを脱退させようか迷ってるって」


 ラブグッドさんはしばらく真顔で目をぱちくりさせていた。何を言っているのかわからないという表情を保って数秒経ち、次第に言葉の意味が理解してきたのか瞬きの回数が増え、頬に冷や汗が浮かんだ。

 どんどんと目が見開いていき、黒い瞳が揺れ動く。口がわなわなと動き、上手く息が出来てないようで肩が息を吸う度に上下している。

 明らかな焦りの中でラブグッドさんは小さく声を出した。


「はぁ?」


 強い疑問を孕む曖昧で腑抜けた声。これまでしっかりと発音し言葉を出していたラブグッドさんの腑抜けた声をこの時、初めて聞いた。

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