第12話「招く手、地雷の服」
マルファクさんから言い渡された『ラブグッドさんの魔術稽古』と言う頼み事、正直な話だと魔術の稽古はそんなに難しいことではない。
ラブグッドさんは勇者の資格者だ。その時点で膨大な魔力量があり、先天的な才能で魔力調整も容易く出来るはず。
今使ってないのは単純に操れないのではなく、戦う気がないからであり、それ故に説得さえ出来れば一線級どころか最上位の魔術師になるポテンシャルは秘めているはず。
「……ただまぁ、説得が難しいんだけど」
小さく呟いて思考を整理する。
彼女のチヤホヤされたいという欲求から考えると、マルファクさんが辞めさせたいということを伝えれば、ある程度、要求を飲んでくれそうではある。
次に、段階的に威力をあげるように魔法を使えば、努力して魔術を習得したように見える上に、なおのことチヤホヤされる可能性があるとメリットを提示する。
大体ではあるが、説得の算段はこんなもんだろう。しかし、確実にこの流れでいけると信じることは出来ない。理知的に考えられず、すぐに反抗してくる可能性もあるし、自分の可愛さを過信して提案を却下する可能性も考えられる。
一旦、家に帰って、策を練ろう。無策で望めるような相手じゃない。
「……?」
建物と建物の間から誰かが手だけを出して縦に振っている。周りを見た感じ誰もその手に気付いていない。
招かれるまま近付いていったら、確実に面倒ごと、それも犯罪行為に巻き込まれてしまう予感がする。
ゆっくりと大回りをして手招いている人の正体を確認した。
手の元には安っぽい仮面とオンボロのローブを着た女の人が立っていた。女の人と確定で言えるのは、ローブの下にスカートの短い黒基調の服を着ているからだ。
フリルの多い服を着たその人を僕は知っている。
それはそれとして、今は関わり合いたくない。
自然に対角線の店の壁にもたれ掛かり、その小路地を見ていると手招きに誘われて一人の男が中へと入っていった。しばらくして、
「あんたじゃないわよ!!」
と言う声と共に、頬が腫れた男の人が小路地から逃げていくのを見て、無視してはいけないと察した。
このまま無視をして、いつまでも彼女が小路地に居たら被害者を増やしてしまう。
その内、自警団が駆け付けてしまったら大事になってしまう。いつしか僕に責任転嫁されてしまうだろう。
捕まるリスクと面倒事に巻き込まれるリスクを天秤にかけたら、少し面倒事の方が気が楽だ。
「何ですか。ラブグッド」
「遅いわよ! 何で一回、無視するのよ」
彼女は仮面を外した。間違いなくラブグッドさんだ。彼女は不満げに睨みつけるとビシッと僕の額を指で小突いた。
「……すみません。こんなところに居たら危ないですよ」
「この街、治安良くないんですから」
ここ最近、性犯罪の件数が増加しているらしい。
ラブグッドさんなら撃退出来るかもしれないが、恐怖に支配されてしまっては力を使えない可能性がある。あまり好きな人ではないとしても、身内が犯罪者に襲われたら目覚めが悪い。
「わかってるわよ」
「あんた、パーティ、入れたのね!」
マルファクさんから貰った腕輪を指差してラブグッドさんはぴょんぴょんと飛び跳ねた。
跳ねるのを辞めたかと思うと自分のチョーカーを指差した。
ラブグッドさんのチョーカーにはロケットがついており、そのロケットには僕の腕輪と同じ藍色の魔石が嵌め込まれている。
「いつでも、呼び出すからね。覚悟しといて」
「……わかりました」
わかりたくない。
「それで、あんたを呼び止めたのは他でもないわ」
「勇者の話よ。あんたがパーティに参加する中で守って欲しいルールがあるの」
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