第11話「クエスト①ラブグッド魔術基礎講座」

「それでね、アティク。君にはパーティメンバーとして頼みたいことがある」

「なんですか?」


 パーティメンバーとしてなんて甘美な響きだろうか。憧れのパーティの憧れのリーダーから憧れの言葉を言って貰える。それだけで心臓がキュンキュンと疼くし、気持ちも昂ってしまう。


「ラブグッドのことなんだけどね」


 前言撤回、不吉の象徴が聞こえてきた。甘美な響きの後に突如としてやってきたどす黒い苦味。それも頼み事でラブグッドさんの名前が出てきている以上、厄ネタなのは間違いない。


「……ラブグッド、戦わないだろ」

「……困っていてね」


 マルファクさんが神妙な面持ちで呟いた。やはり、マルファクさんも感じていたのか。実力主義と名高いパーティにおいての異物、戦わない存在、そんな彼女をマルファクさんが見逃しておくわけがなかった。


「俺は巷では実力主義者って言われてるだろ?」

「あ、はい、聞いたことあります」

「まぁ、実際、実力主義ではあるんだけど、俺には信念があってね」

「俺は自分のパーティで死者を出したくないんだ。だから、強い人で固めてるつもり、メンキブとミサムもよく付いてきてくれてるし、アルゴルもしっかりと実力がある」

「だけど、彼女……ラブグッドは戦わないだろ……これからもっと深い階層に望む時、ラブグッドを守って戦うのは難しい」


 僕が思っていたことを彼が思ってないわけがなかった。魔王を憎み、本格的に自身や仲間を研鑽する。そのためにも彼は深い階層に進み、どんどんと強くなっていきたいはずだ。現状維持を良しとしていられない彼が、現状維持のために励むラブグッドの目的が合うわけがなかった。


「……だから、心苦しいけど、今のままでは辞めてもらうしかない」

「そういえば、ラブグッドさん……ラブグッドはどんな経緯で参加したんですか?」

「……確かに疑問だね。実力主義のパーティに戦わない人が……って」


 その通りだったから弁明することもなく、コクリと頷くとマルファクさんは「そうだね」と言いながら目を閉じた。


「探索中、はぐれてしまって、一人で森の中を迷っていたことがあったんだ。その時、爆音と共に、先に見えていた木が燃え落ちたと思ったら、その火の中心に彼女が居た」

「……惚れ惚れするほどの火力だったよ。彼女の才能にポテンシャルを感じて、呼び止めようとしたらいつの間にか消えていた。しばらくしてからギルドで彼女を見た」

「そこで即決したんだ。パーティの加入を」


 あの大火力をマルファクさんも目撃していたというわけだ。それを求めてパーティの参加を打診したのだが、恐らくはラブグッドさんがモテてると勘違いして今に至っている。

 ラブグッドさんには悪いが自業自得とも言えるし、脱退してもらうと言われたら肯定せざるを得ない。


「彼女が戦えないのは理由があると思うんだ」


 雲行きが怪しくなってきた。嫌な予感がする。


「ラブグッドは魔力は膨大だけど操れないんだと思う」

「だから、戦いに参加できない。戯けるしかない」

「……なぁ、アティク、ラブグッドに魔術の稽古をつけてくれないか?」


 面倒ごとが舞い込んできてしまった。本当は断りたい、出来るだけ彼女とは関わり合いたくない。

 だけど、僕は新参メンバーであり、今のところは自分の存在意義を示すことが出来ていない。


 それに、今考えてみたら、ここでラブグッドさんの首を切られることがあれば、矛先が向くのは僕だろう。さっきは楽観的に仕方ないと言っていたが仕方なくない。僕も本当の意味で首を切られる可能性が出てきてしまう。


 何よりも、目の前で僕に期待の眼差しを向けるマルファクさんを裏切れない。ソロだった僕を推薦したのはラブグッドさんかもしれない、それでもパーティの決定権は彼にあって、彼の決断で加入できたのは彼の一存だ。ガッカリさせたくない。望んだ働きがしたい。

 だからこそ、心の底から嫌でも答えは一つしか無かった。


「わかりました。がんばります」

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