第10話「パーシアスの腕輪」
「それでね。アティクくんに提案があるんだけど」
「なんですか?」
報酬の受け渡しを終えた。彼の言う提案は一つしかない。だけど、僕が考えていることはあまりにも現実的では無い。だから、別の何か、ほかの仕事の斡旋とかだろうか。
「……正式にパーティに入らないか?」
「パーティに?」
「あぁ、他のメンバーも君の加入を望んでくれた」
「へ……あの、え、」
頭の整理がつかない。ありえないと思っていたこと。
この間の探索では出来ることを尽くしたけど、それでも本当に力になれていたのか何処かで疑っていた。
それに、あのラブグッドさんの一件、自分の正体を知っている人を近くには置いておきたくないはずだろう。なのに、パーティ参加の打診とは……
もしかしたら、僕の脳が都合よく解釈したかもしれない。本当はパーティというのは打ち上げ的なパーティーなのかもしれない。
「パーティーって立食会の……」
「いや、冒険者パーティだよ」
「え、あ、あの、僕がマルファクさんのパーティに入るってことですか?」
「……嫌だったかな」
「いや、あの……ラブグッドさんもですか?」
「加入を望んでくれたってことかな?」
コクリと頷くと、マルファクは「それがね」と呟いた。
「アティクくんを最初に推薦したのはラブグッドなんだ」
「びっくりしたよ……これまで、色んな人を入ってもらおうとしたんだけど、ラブグッドが却下することが多かったからね」
「……なるほど」
何となく魂胆はわかった。恐らく彼女は僕を管理下に置きたいのだろう。
勇者という秘密を明かした行為、あれは秘密を漏らせばいつでも殺せるという宣誓だ。そして、真っ先に推薦したのは、加入して管理下に居なければ殺すという脅しだろう。
こうなった以上、もう道は無いし、元からこのパーティに入ることが目標だった。断る理由がない。
「ありがとうございます。入りたいです」
「本当か!」
「はい、よろしくお願いします」
「いやぁ、ありがとう! 受けてくれて」
「よし、と言うわけで、これを君に渡すよ」
魔力の籠った藍色の宝石が込められた金属製のアンクレットを渡された。一見するとただのアクセサリーだが、触ってみると要所から細かな魔力が感じられる。恐らくは魔道具だろう。
「これは『パーシアスの腕輪』って言う魔道具だ」
「この魔石とリンクしてある魔石に向けて、魔力を飛ばすことが出来る魔道具で、この街くらいの範囲なら自由に魔力を飛ばすことが出来る」
「その魔力を飛ばすって性質を利用して、遠距離でも話すことが出来るんだ。……そうだね、どうすればわかりやすいかな」
マルファクさんは自分の首からぶら下がったペンダントを取り出した。そのペンダントにも同じ色の魔石がトップに取り付けられている。リンクしている魔石というのはこの事だろう。
「行くよ。クラレンリ、アティク」
マルファクさんが言葉を放つと共にマルファクさんの魔石が微かに光った。それと共に僕に渡された腕輪がブブブと振動する。
「出てみて。アワンスって言って」
「あ、アワンス」
振動が止まり、魔石がほのかに光った。
「ね! 出れたでしょ!」
『ね! 出れたでしょ!』
マルファクさんが言った言葉が、少し遅れて魔石からも聞こえる。
珍しい魔道具だ。こういうものがあると本では読んだことがあるが、実際には見かけたことがなかった。さすが、一流パーティ、持っているものまで一流だ。
「それで、切る時はこう」
『それで、切る時はこう』
「ノクトアワンス」
魔石の光が消えると共に、マルファクさんの声が追いかけなくなった。
「用がある時はこれで連絡する。何かあったら連絡してくれ」
「わかりました……呪文、紙かなんかに書いてもいいですか?」
「あ〜、すまん、忘れてた。説明書だ」
見やすい字で書かれた説明書を受け取った。中には使用のために必要な呪文と効果などが事細かに載っている。
「ありがとうございます」
「よし、これで君は俺のパーティの一員だ」
「そこで、君には少しずつでいいが気をつけて欲しいことがある」
「たった一つ、仲を深めるために、人を呼ぶ時はさん付けじゃなくて、呼び捨てにして欲しい。別に敬語をやめろとかじゃない、個性だしな」
「だが、ここは妥協して、呼び捨てにしてくれ」
「あ、わかりました。マルファクさ……あ、えっと、マルファク」
気恥ずかしくて伏せてしまった視線を上げるとマルファクさんは朗らかに微笑んでいた。その視線を見てようやく自分が仲間として認められたのだと実感出来た。
初めてのパーティ、初めての仲間、ソロが当たり前だった僕にとってはこれからの人生、全てが初めて尽くしになるのだろう。
今からワクワクが止まらない。
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