第9話「1ヴィクトの価値」
「やぁ、待っていたよアティクくん」
「さぁ入って入って」
「あ、ありがとうございます」
「うん、部屋はこっちだ!」
いつにも増して爽やかさを振りまいていた。この爽やかさに当てられると日陰で植物弄りをするのが好きな僕は消え去ってしまいそうになる。グッと消滅を堪えて笑顔を作った。
室内も外観通りだった。掃除は行き届いているが、それでもどことなくオンボロで古臭さのある屋敷。確かここにはメンキブさんとミサムさんが住んでいると聞いたことがある。
「あの他のメンバーは」
「メンキブとミサムなら出てるよ。武具の整備だって、ミサムは本当かわからないけどね」
「ラブグッドとアルゴルは多分、自宅かな」
「ラブグッドさんとアルゴルさんは一緒に住んでないんですね」
「ラブグッドは住みたいって言うけど、間違いがあったら気まずいからね〜。アルゴルは線を引きたいらしい」
「あぁ、なるほど」
マルファクさんも男女関係で関係が崩れるのは嫌らしい。なら、尚更、ラブグッドさんを置いているのがよくわからないけど、何か理由があるのだろうか。
「さ、ここだね。入って入って」
「そこのソファに座ってよ。ほらほら」
言われるがままにソファに座ると。マルファクさんはジャリジャリと金属が擦れ合う音を鳴らしながら布袋を持ってきた。机に置くとべたりと崩れるその袋は形からして何かわかる。
「こんな袋でごめんね」
「ありがとうございます。ちょっと確認しますね」
「算術の神よ。精神の妖よ。袋の中の真実を示したまえ。サムレンジ」
合計37800ヴィクト、大体リンゴ126個分の金額だ。今回のダンジョンはモンスターの全てが花蜘蛛だったことから、蜘蛛の瞳や蜘蛛の足などは希少度は高くないものの、解毒薬とかに使われる分、需要度が高く、一個あたりの価値の単価はそれなりに高い。100〜500ヴィクトくらいで取引されるだろう。その他に換金できそうなものとしては花蜘蛛の花。
花によっては需要がないものも多く、中でも僕が貰ってきたベラドンナについては、扱いの難しさから普通の道具屋では買い取ってくれない。マルファクさん曰く基本的には行きつけの道具屋で買い取ってもらっているらしく、手間を考えて僕に全て預けてくれた。
花蜘蛛の花の種類を見たところ、討伐した25体の内、15体が街周辺でも採取出来る花であり、他の4体も希少性は高くなかった。そう考えると売ることが出来るのはベラドンナとアルキバを除いた4体。それなりに希少性があり、薬剤や武器などに使える万能性の高い植物でそれなりに価値がつくだろう。採取出来る限界を考えると、それでも113400ヴィクトが限界だろう。
ざっと計算しても、151200ヴィクト、そこから僕の37800ヴィクトを引いて、ほかのメンバーの数で割ったら28350ヴィクトになる。明らかに僕の分前が多い。
「……僕の取り分多くないですか?」
「十分活躍してくれたからね。君のおかげで助かった部分が沢山ある」
いや、そんなことはない。確かに僕がサポートして戦いやすくなったことはあったとしても、あの程度の階層ならマルファクさんとメンキブさんの実力を見ると僕が居なくても突破出来ていた。それに、毒に対するリカバリーがないとは思えないし、僕がやったことは多いように見えて浅い。
「……そんなことないですし、僕は採取出来た花を何個か貰ってます。その花の分を含めると、こんなには」
「ここだけの話をすると俺のパーティは毒に弱いんだ。もちろん、アルゴルが毒の対策を考えてはくれているけど、俺もメンキブも毒耐性がない」
「……昔ね。毒を持つモンスターに壊滅させられたことがあるんだよ。俺とメンキブとミサムで冒険者をやってた駆け出しの頃ね。そこから解毒薬とかを持つようにしていたけど……限界はあるよね」
「……それでも」
「受け取って」
食い下がろうとも考えたけど、マルファクさんの瞳は強く、僕が何を言っても変わるとは思えなかった。「分かりました」と呟いてお金が入った布袋をローブの中にしまった。
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