第8話「魔王と勇者の仕組み」

 魔王が産声をあげた時、勇者も産声をあげる。これは世の理であり、現世を安定させる仕組みである。

 これは現存する最古の書物に書かれた一文である。この一文が書かれた書物は過去、大きく信仰されていたが、現在ではある一件により疑問視されている。

 400年前に魔王が生まれた。同時期に勇者の紋章を持つ赤子が生まれた。その赤子は生まれるにしては酷く未熟で、すぐに息を引き取った。

 そして、その十年後に次の勇者が産まれた。その頃には魔王は大きく成長していた。

 魔王も馬鹿では無い。次に勇者が生まれるとわかると、魔王はこの世に強大な呪いを撒いた。死産の呪い、母体から生まれる時に必ず死亡してしまう呪い。

 そうして、勇者が生まれることなく、400年が経過した。


 400年もの間、王国は抗う力を磨いた。魔術、剣術、武術、人間える力を磨き上げ、魔王に抵抗した。しかし、魔王の力には及ばず、人間の領土は少しずつ減っていく。

 そんな時に立ち上がったのが冒険者ギルドであった。

 ならず者たちが王国に雇われ、兵となったことが冒険者ギルドの始まりだ。ならず者の兵士の中で高い知性を持った男が独立し、義勇兵として建てた組織が、どんどんと発展して行った。

 その結果、王国や有志が出した依頼をこなし、ダンジョンを攻略し、収入を得る冒険者という職業が生まれた。


 僕らのパーティもそうだ。僕含めて全員が報酬のために依頼をこなしている。二名を除いて。

 僕のパーティのリーダーである「マルファク・コーネリアス」は魔王を憎んでいる。本人から聞いた訳ではないが、彼の故郷は魔王軍によって焼かれたという。マルファクさんの怨嗟は激しく、魔王を倒すために冒険者をやっていると言う。それ故に20歳という若さで高名なパーティリーダーをやっている。

 もう一人は「アルサイド・ラブグッド・ヴィクトリア」、勇者の資格を持つ女。勇者でありながら、力を使わずチヤホヤされるために冒険者をやる異物。どういう条件で生き残っているのかは知らないが、高純度の赤い魔力、その紋章と言う証拠がある以上、疑うことは出来ない。それに、勇者であることを言いふらしている素振りもない。

 花蜘蛛の一件も言葉巧みに誤魔化していたし、その結果として僕のアシストがあって、どうにか花蜘蛛を二人で討伐したみたいに扱われている。


 そんなこんながあって二日が経った。採取出来た花の調合や栽培を試していたが、今の所上手くいっている。

 あとはアルキバの花なのだが、燃えた死体の中で唯一生き延びていた数個の種を適切な方法で栽培し、増やしていくつもりだが、栽培するには情報が少ない。

 知り合いを頼るつもりだが、偽りとされてた以上、大きな成果は望めない。

 ベラドンナについては


「もうこんな時間か……行かなきゃ」


 簡単にローブを羽織って家の外に出た。

 今日はマルファクさんから呼び出されている。報酬を渡すためらしい。恐らくはこのタイミングでパーティ入りが決定するのだが、ラブグッドさんのことを考えるとパーティ入りは絶望的だろう。

 足も重くなるが……まぁ、楽観的に行こう。どの道、遠い存在だったんだから。


 パーティの拠点であるマルファク邸に訪れた。いつ見ても思うが想像よりも控えめな屋敷だ。悪く言えば古臭い。

 いつもはこの屋敷を外から見るだけだったが、今日は中に入れる。この進展だけで僕はしばらくモチベーションになるだろう。

 息を飲んで、ゆっくりとドアベルを叩いた。


「やぁ、待っていたよアティクくん」

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