第5話「不可視の護符」

 ダンジョン探索は順調だ。

 やはり、花蜘蛛がメインのダンジョンであり、第一階層にはベラドンナらしき蜘蛛は見られなかった。それどころか遭遇した花蜘蛛は全て別の花を体に宿している。製作者のこだわりか、それとも花蜘蛛の生態か。

 何にせよ毒蜘蛛が居なかったのは幸をそうした。僕たちのチームはミサムさんが注目を集め、僕がマルファクさんを強化し、マルファクさんが死角から切りつける。

 満足いく連携が出来ている。

 採取も運が良かった。花蜘蛛の中に珍しい薬草を生やした蜘蛛がいて、その薬草と種を採取出来た。早く家に帰って栽培したい。


「見つかりねーな。第二階層の入口」

「そうだね。おっと、行き止まりみたいだ。」

「こっちはダメみてーだな。メンキブが見つけてっぺ」

「うん、引き返そうか」


 来た道を戻る。端に転がる蜘蛛の死骸に冥福を祈りながら戻る。

 ダンジョンの入口に着くとメンキブさん達は既にそこにいた。アルゴルさんは採取で得たものを並べて換金出来るものと出来ないものを仕分けていた。メンキブさんは手袋を大事そうに抱え、ベタベタと体を触って話しかけるラブグッドさんの相手をしていた。


「蜘蛛怖かった〜キモいし最悪」

「まぁ、無事だったから」

「メンキブが助けてくれたもんね〜。ありがと、いつも」

「……仲間だからな」


 体をピッタリくっつけ上目遣いで話しかけるラブグッドさんに、明らかに顔を赤らめて目を逸らし離そうとするメンキブさん。パーティとしてみたくない色恋沙汰。

 いや、さっきはミサムさんにくっついていた。誰でもいいのかこの女。

 ダメだ。マイナス感情をコントロールしなくては。


「メンキブ、どうだった?」

「おぉ、マルファク、無事だったみてぇだな」

「あ、マティク、これ、助かった」


 ラブグッドさんから逃げるようにメンキブさんは僕たちの方に走ってきた。手袋を僕に返すと、アルゴルさんの横に置かれていた地図を手に取り、マルファクさんに渡した。


「おぉ、二階層入口見つけたのか」

「門番は居たか?」

「あ〜居ねぇ。先に入ったヤツいたのか?」

「その割には痕跡がないけどね。元から第一階層は門番は居ないのかもしれない」

「あの、花蜘蛛に毒を持った人はいましたか?」

「アルゴル、毒蜘蛛はいたか?」


 メンキブさんがアルゴルさんに尋ねると直ぐに首を横に振った。どうやら居なかったらしい。ベラドンナの花蜘蛛、この状況においては異物だ。毒蜘蛛系のダンジョンならわかるが、最初に、ましてやダンジョンの外に出ることが不可解だ。

 このダンジョンに辿り着くことを阻止したいのか?


「今日はここで撤退しようか」

「あ!」


 ラブグッドさんが大きく声を上げて立ち上がった。彼女は「忘れ物しましたぁ」と言いながらバタバタとダンジョンの奥へと向かっていこうとする。


「ラブちゃんついてく?」

「む、ミサムさん、やさし〜」

「でもぉ、忘れたのラブの大切なもので、みんなに見られるの恥ずかしいな」

「だから、一人で行ってきます!」

「……待て」


 走り出そうとしたラブグッドさんをアルゴルさんが止めた。アルゴルさんはいつも通りの不機嫌そう顔を浮かべながらゴソゴソとカバンの中を漁っている。一枚の御札を手に取ると彼女の額に貼り付けた。


「不可視の護符だ。つけてれば花蜘蛛くらいなら見つからない」

「アルちゃん! 本当に気が利く〜、ありがと」


 小さく手を振ったかと思えばラブグッドさんはそのまま走り出した。ダンジョンの奥へと消えていくのを全員で見送った。

 仕事はしないけど悪人では無いと思う。だから、無事に帰ってくることを祈る。誰かが欠けて終わるのは後味が悪いから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る