第4話「友情って感じ」


 蜘蛛の採取を終え、ダンジョンにたどり着いた。薄暗い洞窟入口に明らかに技術を持って作られた荘厳な扉が取り付けられている。人為的なもの、恐らくは魔王側の知恵ものが作り出したダンジョン、あるいは過去の人間か。

 このタイプのダンジョンは階層によって敵の強さが変わる。ダンジョンの外にベラドンナの花蜘蛛が居るのだから、ダンジョンの中にも花蜘蛛が居るだろう。


「ダンジョンに入ったら二手に分かれよう。斥候が出来るアルゴルとアティクに分かれて、前衛職の俺とメンキブは分かれるとして」

「魔法職を被らせるのは……そうだな」


 マルファクさんは腕を組んで俯いた。チーム分けを考えているのだろう。


「俺、アティク、ミサムチームと、メンキブ、アルゴル、ラブグッドチームに分かれよう」

「今日は一階層までだ。一階層の地図をつけながら歩き、二階層の入口を見つけたら示してくれ」

「そうだ、アティクは地図を書く魔術は使えるか?」


 地図の自動描画魔術、パーティを組んでダンジョンに行く冒険者なら持っていることが多い魔術だ。魔道具を使うことで補えるから、優先度が低く習得していなかった。実際に自動描画の魔道具を持っているし、しかし、コストの削減を考えると習得しておいた方が良かったのかもしれない。


「魔道具なら持ってます」

「お、用意がいいね。じゃあ、入ろうか」

「気を引き締めて!」


 ダンジョンの扉を開く。

 暗闇だ、先の先まで真っ暗闇。ダンジョンは基本的に明かりはつかないと言うが、このダンジョンは明かりがついていないとおかしい。扉を筆頭に壁や床、天井、暗闇でも見える範囲のもの全てが舗装されている。


「暗いな〜」

「ランプつけるぞ」


 アルゴルさんが灯りをともした。

 壁の装飾、天井の形、より細部までダンジョンのディテールが明らかになる。壁の装飾は金属が使われており、どことなく王室のような雰囲気が感じられる。天井も然りでシャンデリアこそないが、上品な壁画のようなものが施されていた。

 やはり、このダンジョンは人の手が加えられている。ならば作業をするために光源が必要であろう。

 だからこそ、探す。魔力を感じる場所を探す。

 金属の装飾、装飾のほとんどが金属の円柱によって出来ている。金属の走行は全て繋がっており、所々に半球のような装飾もある。


「これか……」

「アティク、何かあったか」

「マルファクさん、魔法使います」


 杖をコツンと装飾にくっつけた。


「溢れろ、魔の導きよ、異の力よ。カジマルフィア」


 魔力伝導魔術、本来は魔力切れした仲間に魔力を分けるために作られた魔術だ。現在は魔力伝導を用いて回路を作り魔道具の作成などに用いられている。この金管は恐らくは魔力が伝導しやすい素材で出来ている。その先の半球には発光の魔道具が詰められているのだろう。

 案の定、半球が輝き始めた。


「凄いな! これで探索しやすくなった」

「それじゃあ、二手に別れようか」


 ここから一本道の奥は二つに分かれている。

 この先には花蜘蛛が出てくるだろう。ベラドンナが出るとは限らないが、出ないとも限らない。出る可能性がある以上、対策はしておくべきだろう。

 しかし、メンキブさんのチームでは補助呪文を使えそうな人はいない。ラブグッドさんは魔術師だから、使える可能性はあるが、先の振る舞いを見るとどうにもあてにはならない。

 ローブの中の魔道具の種類を思い浮かべる。


「ちょっと待ってください。これ……を」


 ローブから取り出したのは革の手袋だった。僕のお気に入りで採集の時に使っている魔道具だ。骨董市で安価で売られていたのを気に入り、毎日丹精込めて魔力を注ぎ込んだ手袋。

 ある程度の毒耐性はあるし、何より耐久力を魔術で底上げしているから壊れる心配もない。


「毒耐性がある手袋です」

「これ、小さいように見えますが、使用者のサイズに合わせる呪いがかかってるので、良かったら」

「おう、ありがとな。大切に使わせていただく」


 メンキブが手に取ると手袋は僅かにだが大きくなった。どうやらぴったりなようで、驚いたような顔をしながら拳をグーパーと動かしている。手袋のまま拳を握りしめ「ん」と突き出してきた。


「感謝のコツンだ」

「感謝のコツン?」

「ほら、手貸せ、拳握って」


 言われるがままにするとメンキブの拳を僕の拳にコツンとくっつけた。明らかに根明にしか許されない行為、友達の少ない僕はこんなことしたこと無かった。でも、なんだろうこの感情は。


「友情って感じするだろ」


 ……友情って感じがする。

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