第3話「前に出る勇気」

「アルゴル!」

「相手の生命エネルギーは感じられない」

「つまりは……?」

「勝ちだ」


 パーティでの初勝利。彼らにとっては強敵ではなかったのかもしれない。それでも僕が関わった唯一の勝利、それがとてつもなく嬉しかった。火照る気持ちを抑えて前を見る。

 皆も緊張の糸が解けたのかホッと肩を撫で下ろしていた。


「幸先いいな!」

「うん、本当に、このままダンジョンに行こう」

「メンキブ〜ラブ怖かった〜」

「ははは、そうだな。でも無事だったろう」

「う〜、怖かったもん! でもみんなのおかげだね!」


 メンバーの中心には何もしてないはずのラブグッドさんが居た。

 ラブグッドさんは他のメンバーに何度もボディタッチをして話しかけ、話の中心になっている。他のメンバーもその状況を良しとしており、ミサムさんに至ってはデレデレと鼻の下を伸ばしていた。


 気持ちが悪い。

 実力主義のパーティに紛れ込む異物。活躍していないのに中心にいる。僕の方が活躍しているのに。

 ラブグッドさんはパーティから外れた位置にいる僕の方をチラりと見た。その時に浮かべた笑顔は侮蔑的な優越感を孕んでいた。


「アティク、気を引き締めろよ」

「……アルゴルさん」


 メンバーの外で周りをキョロキョロと見回していた盗賊のアルゴルさんが話しかけてきた。アルゴルさんは斥候の役割だ。常に周りを見て危険を予知しているのは素直に尊敬出来る。


「ダンジョンまで敵は……」

「今のところ居ない。だが、私のサーチは完璧じゃない」

「アティクも気を張っててくれ。他の連中は……わかるだろ?」


 クイッと上がった顎の先にはほかのメンバーがいた。他のメンバーは蜘蛛の採取をしているが、まだまだラブグッドさんが中心にいる。

 アルゴルさんが言いたいことは嫌でもわかる。でも、自分から何もしないで中心に入れないと嘆くのがダメなことは分かる。


「アルゴルさん、ありがとうございます。これ、探知の魔法瓶です」


 ローブの中から小瓶を取り出した。その小瓶の中には青白い砂と黒い石が入っており、青白い砂の上を黒い石がぐるぐると回っていた。

 探知の小瓶は敵が近づくと、黒い石が止まり青白い砂がざわめく魔道具だ。アルゴルさんも自分が何を言いたいのかわかったらしく、「よろしく頼む」とだけ言うとパーティの輪の中に入っていった。


「……うん、頑張ろう」


「あの、僕も採取していいですか?」

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