第39話 対決(8)

 その傭兵たちをラヴィとその手下が後ろから襲う。ここまで走ってきた勢いのままに。

 後ろに敵がいると気がついていなかった傭兵たちは慌てた。

 ラヴィが傭兵を後ろから襲ったのにつづいて、敷地のあちこちから人が出てくる。盗賊の仲間どもだ。それが短刀だの仕込しこづえだのを手に傭兵たちの後ろから襲いかかる。

 こうなると傭兵たちはだれが敵でだれが味方かわからない。

 カスティリナもだ。気がついたらラヴィの姿を見失っていた。逃げるところは見ていないけど、逃げたのだろう。それに気づきもせず、傭兵たちは同士討ちを始める。

 同じ傭兵局どうしではなく、いろいろな傭兵局からの寄せ集めなので、こういうときに統制がとれない。

 「はっ」

 カスティリナはとっさに石畳を蹴って正門に向かった。

 ラヴィの、いや、蒼蛇あおへびヴァーリーの一味が逃げてしまう。

 決着はつけられなくても、傭兵が同士討ちをしているあいだに逃げられました、では、あまりにこの街の傭兵の顔が立たなさすぎる。せっかく盗みを未然に防いだのに、それでは盗賊が勝ったも同然だ。

 たぶん商会の偉い人たちが仕事するのに使っている大きな建物の下の通路をくぐり抜けると、向こうは広い庭になっていた。その向こうに白い大きな門が見える。

 なんでこんなに広い庭、とカスティリナは思う。

 この港に近い土地を買い占めて、こんな庭を造って。これだったら、だまって蒼蛇にあの金を盗ませておいたほうが、この商会の偉い人たちにはいい薬になったのではないか。

 そんなことを考えていると、後ろから羽根ばねの音がした。

 カスティリナは道に身を投げ出す。矢は大きくれてずっと前のほうに落ちた。

 「おい、倒れたぞ!」

 「つかまえろっ!」

 「ふんじばっちまえっ!」

 傭兵どもが追ってきた。

 「ばかっ! 味方だっ!」

 カスティリナが大声を上げても相手はきいている様子ではない。しかたがない。全力で逃げる。

 石畳を蹴って正門までたどり着いた。

 正門は閉まっている。門衛もんえい小屋をのぞいてみる。なかで血まみれで男が倒れていたりしたらいやだな、と思うが、しかたがない。

 確かに男が倒れていた。でも血まみれではなかった。口のところに布をあてられ、後ろ手にされて腰のところを縛られている。まぶたが閉じているけれど、命に別条はないようだ。

 たしかに蒼蛇の仕事だ。そっと入って来てそっと出て行く、蒼蛇の昔のやり方の仕事。

 カスティリナは壁にかかっている鍵束を見た。

 いっぱいある。どれが何の鍵がわからない。後ろからはさっきの傭兵たちが追ってきている。同士討ちしてもしかたないかと思ったとき、一つだけテーブルの上に投げ出してある鍵に気がついた。その鍵をつかむ。縛り上げられた門衛がだらしない声を立てた。門衛小屋から敷地の外に通じる扉の鍵穴に差して回してみる。開かない。ラヴィが手伝ってくれたら、などとばかなことを考えながら、逆に回してみる。ついでに扉を蹴ってみる。扉は勢いよく開いてはね返ってきた。

 なんのことはない、最初から鍵はかかっていなかったのだ。その扉からカスティリナはまろび出る。

 入れ替わりにあの傭兵たちが入って来たらしい。でも外に出る気はないようだ。カスティリナの出た戸口から外を見回す。しばらく見回して

「外にはいないぞ」

と中に言っている。いないぞ、も何も、ちゃんと見てないでしょ、と言ってやりたいところだ。それより縛られてくたばっている門衛さんをなんとかしなさいよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る