第37話 対決(6)

 横にいた少女の幻がすっと去ったのをきっかけに、カスティリナは剣を抜いた。すかさずラヴィの胸に向かって一撃を繰り出す。

 ラヴィは逃げない。槍のつかを前に回してカスティリナの剣を軽くはじく。弾かれるとわかってカスティリナは剣を引き、その反対側から胸を狙う。それをラヴィは軽い動きでまた弾く。カスティリナが剣を引いたところへ、ラヴィはすばやく槍の穂先を繰り出してきた。この狭いところでよくやる。こんどはカスティリナが剣の柄で弾く。後ろに引くか。いや、ラヴィは槍をいできた。左腕で槍の柄を押し返し、その勢いで剣をラヴィの首へと突き出す。ラヴィの左手の拳がそのカスティリナの腕を打つ。カスティリナが剣を引くと、ラヴィも槍を引いた。引いた勢いでくるんと回る。半身のまま反対側からカスティリナの体を薙いできた。剣の刀身でなんとか槍のやいばを弾き返した。

 このままでは手詰まりだ。

 間合いがとれないので、ずっと武器を振り回し続けていないといけない。疲れる。

 相手も同じことを考えているはずだ。

 カスティリナは、一歩大きく建物の中のほうに下がって、そこからまたラヴィの胸に向かって剣を突き出した。ラヴィは槍で防ぎながら後ずさりする。

 開け放った養生ようじょうの扉から外に出た。

 外は、商売用の大きい手押し車が行き違えるくらいの広い道だ。これで少しは間合いがとれる。

 ラヴィの手下はその道の向かい側に大きく場所を空けて立つ。こいつらが手出しをしてこないとは限らないが、いまは、それよりもカスティリナとラヴィにだれも近寄らないように場所を作ってくれているようだ。

 「いいぞ」

 後ろから声をかけてきたのは局長だ。

 「そいつの槍で、昨日のバンキットの傭兵どもはひと突きで一人ずつやられたんだ。たいしたもんだ」

 見物のつもりか。

 いや。

 たぶん、カスティリナがどれくらい剣を使えるか、確かめてみたいのだろう。

 助けに入りもしないで、ひどい傭兵局長だ。

 カスティリナは剣を胸の上やや上に剣を構え直す。

 ラヴィは槍を腰の下に斜めにだらっと構えている。

 間合いは三歩半といったところか。踏みこめば、そのあいだに槍を構え直し、うまくすればカスティリナが自分で槍の穂先ほさきに飛びこんでくるように仕組むつもりだろう。

 どうする?

 いまラヴィは穂先を右下にして構えている。左側を突いても対応はしてくるだろうが、少なくとも穂先をまっすぐにカスティリナに向けている余裕はない。

 もちろんカスティリナがそう来ることはラヴィは読んでいるだろう。

 左足を引いて半身になって槍先を突きつけるか、それとも左を突かせておいてカスティリナの背後に入るか。

 いま後ろに入るのは、こいつは好まない。

 その思いがひらめくとともに、カスティリナは踏みこんでいた。

 そのとおりだった。左足を大きく引いてカスティリナの足に槍を突き出してくる。カスティリナも大きく左に踏み出して反対側からラヴィの胴を斜めに薙ぐ。ラヴィは右足も引いて体の向きを変え、槍の柄でその剣を防ぐ。カスティリナが剣を引く。ラヴィは柄の側でカスティリナの顔を突いてきた。正面だ。慌てさせてそのあいだに柄と穂先を入れ替え、首かどこかを薙ぐつもりだ。カスティリナはむりやり左足を後ろに蹴った。右足が地面をつかんでいないままだったので、後ろに大きく転ぶ。でもラヴィが踏みこんでくるまでのあいだに起きられる。それがわかっているからか、ラヴィも踏みこんでこなかった。カスティリナは時間をかけて立ち上がり、服についたほこりを手ではたく。

 また間合いはさっきと同じくらい、そして、ラヴィの構えもさっきと同じだ。

 カスティリナはおとなしく両手で頭の上に剣を振り上げて構えてみた。

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