第36話 対決(5)

 「それにな」

 局長が言った。

 「腕の立つ傭兵には、話をきいておいてほしかったんだろう、って」

 局長が、人が悪そうに笑う。

 「とくに、それがステッセン・フェルディエンドの娘となればな」

 ラヴィも柔らかく笑った。

 局長は大きく息をついた。

 「さて」

 局長があらためてラヴィのほうに顔を上げる。

 「金庫で大立ち回りをしている隙にここから金銀を持ち出して逃げ出そうっていうあんたの企みは失敗したわけだが」

 ことばを切って、首を傾げる。

 「どうする? おとなしくつかまるか?」

 「つかまえる気なんかないでしょ?」

 あの善良そうなにきびだらけの少女が、憎まれ口をたたいて居直った。

 「どうかな?」

 局長が言う。

 「それとも、すぐに逃げ出すか?」

 「そのほうが賢明だとは思う」

 なるほど、このことばが使えるなら、「散会」も「再集合」も「と思われる」も使いこなせるわけだ。

 「でも、まだちょっと時間がある。あっちの大芝居、なかなか終わりそうにないからね」

 言って、ラヴィは軽く体をひねった。

 たぶん、左手で背中に持っている短い槍を構えやすくするためだ。

 ラヴィはカスティリナを見た。

 「カスティリナ、あんたともうちょっと仲よくなりたい」

 そのカスティリナの横に、あの気配だけ感じさせる少女が寄り添ってくる。

 り合いは避けられないらしい。

 「もの好き!」

 言って、カスティリナは剣の柄に手をやった。

 父から譲られた宝剣「くれないの水晶」に。

 この剣は、あるいは先代の蒼蛇あおへびのヴァーリーを知っているのかも知れない。

 幻の少女に確かめれば何か知っているかも知れないが、そんな余裕はなさそうだ。

 ラヴィに従っていた手下が後ろに下がり、場所をける。

 局長も後ろに下がった。

 狭い玄関の入り口と内側で、ラヴィとカスティリナが向かい合う。

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