第33話 対決(2)

 「うん」

 局長はうなずいた。

 「昔はわりと人数でやっていたらしい。法務府だの傭兵だののあいだでは名が知られていたが、最近みたいに世間で騒ぎになるようなことはなかった。それに、いまの蒼蛇あおへびは、姿を見られたら必ず相手を殺すという話だけど、そのころはそうでもなかった。たしかに捕り手に向かった連中には容赦なかったが、家や店の人間は、縛り上げられたり口に縄を掛けられたりはしたけれど、めったに殺されはしなかった。だいたい人目につくことを嫌っていたようだし、だいぶあとになってまとまったお金がなくなっているのに気づいて、調べてみるとどうも蒼蛇らしい、ってことになった事件だっていっぱいある。蒼蛇っていうあだ名だって、ほとんど音も立てずにするすると入って来てまた出て行くからついた名まえだ」

 そして、横目でカスティリナを見て、ぽつっと言う。

 「いまの蒼蛇の騒々しいやり方とは違う」

 そう言った局長のことばが届いたわけではないだろう。

 しかし、その局長のことばが終わるともに、稲光のような光が走り、地鳴りのような大きな音がして、養生ようじょうのガラスががたがたがたっと騒々しい音を立てた。

 「あーっ!」

 カスティリナが腰を浮かせる。局長が顔をしかめてカスティリナを見上げた。

 いまカスティリナが飛び出しては、ここに詰めている意味がなくなる。

 カスティリナは椅子に座り直した。

 「たぶん、金庫がやられたんだな」

 局長は穏やかに言った。

 「おまえの好きな火薬で」

 「わたし、べつに火薬好きじゃありません!」

 怒って言い返す。

 表を、傭兵か店の番人かがあわててその爆発の起こったほうへとかけていく足音がした。

 何組もの人がそちらへ向かって行く。ほどなく、わあっという、悲鳴ともときの声ともつかない騒ぎ声が響いてきた。

 カスティリナはあらためて局長を横目でにらむ。

 でも局長に怒っているわけではなかった。

 ここほど奥ではないが、金庫だって広い敷地の奥のほうにある。そこまでの主な道筋には、店自身が雇った番人も、バンキット局長が指揮する傭兵も、互いに連絡を取り合えるようにして持ち場を決めてあった。

 そのだれも気づかなかったか、それともその全部がやられてしまって、まっすぐ金庫まで入られたのだ。しかも、その金庫をいきなり爆破された。

 いや、少しはシルヴァス局長に対しても怒っていたかも知れない。

 こういう場に慣れていないバンキット局長に指揮を任せたことについてだ。

 「だいたい……」

 カスティリナが愚痴ぐちを並べようとしたところを、止められた。

 局長に。

 そして、あの気配しか感じさせてくれない、幻の少女に。

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