第32話 対決(1)

 カスティリナはシルヴァス局長といっしょに養生ようじょうの玄関に腰を下ろしている。

 ふだんは病気やけがの患者たちが座って、医者に診てもらうのを待つ場所なのだろう。

 いまは、その医者がいるはずの部屋に、金銀を入れた木箱が積んであった。部屋にいっぱいになっている。こんなに金銀がひとところにあっていいのかと思うくらいだ。

 昼間は汗をかくくらいに暑かったのに、夜中は涼しい。

 カスティリナは、局長に自分の考えを話してみた。

 局長は驚きもしなかった。カスティリナの考えにそれだけ説得力があったのか、それとも先に同じ答えにたどり着いていたかのどちらかだろう。

 たぶん、わかっていたな、と思う。

 腹が立つ。ラヴィがさらわれたときいて慌てた自分がばかみたいだ。

 でも、話を聞き終わって、局長は、ぽつんと一つ、言った。

 「蒼蛇あおへびのヴァーリーという男、たしかにいたぞ」

 「へっ?」

 カスティリナは驚いた。

 だとすると、せっかくカスティリナが考えたことがぜんぶひっくり返ってしまうのだが。

 玄関の扉はすりガラスを張ってあり、外からはランプの明かりがほのかに入ってくる。盗賊が来るとわかってけているのではなく、いつも点けている常夜じょうやとうだろう。

 その明かりで、局長が首を振ったのがわかる。まじめというより、あまり愉快ではなさそうな顔をしている。

 「おれがまだ独り立ちしていなかったころから、蒼蛇のヴァーリーというのは名を知られていたな」

 つまり、カスティリナがまだ生まれていなかったころ、だ。

 「あんたのお父さんの名が蒼蛇の一党に知られているとしたら、そのころを知っている盗賊がまだあの盗賊団にいるってことだろう」

 「で、わたしの父が出会っているってことは、いたんですか? その蒼蛇は、確かに」

 「ああ」

 局長はすりガラスの向こうに顔を上げる。

 「おれは会ったことがないが、り手に行った連中が、黒い装束を身につけて盗賊どもを指揮している背の高い男というのを見てる。そいつは自分の身のこなしも鋭かったし、そいつのちょっとした指図で盗賊どもがじつに機敏に動いたっていう。それが蒼蛇本人なのかどうかは知らないが、そいつが一味を動かしてたことは確かだな」

 「でも、だとしたら、どうして……」

 カスティリナはことばを選んだ。

 「そのラヴィは、だれもそのヴァーリーを知らない、なんて言ったんです? その話だと、その首領がちゃんと姿を見せて一味を動かしてたんでしょ?」

 「だから、そのラヴィって子、言ったんだろう」

 局長は人なつこそうにカスティリナに顔を上げた。

 「蒼蛇を見たっていう人がいたとしても、それは昔の話だって」

 「ああ!」

 カスティリナはうなずいて、局長を見返す。

 「代替わりした?」

 局長は一つ頷く。

 「そんなきれいなものではなかったかも知れないけどな」

 そして、眉をひそめ、ひとりごとのように続ける。

 「たしかに、おれが親父さん、いやつまりあんたのお父さんなんかからきいた話と、最近の蒼蛇とは、感じが違うんだよな」

 「感じ?」

 局長の言いかたがどことなくあいまいなのが気になる。

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