第31話 蒼蛇のヴァーリー(3)

 ここは、そのヴァーリーという首領の立場で考えてみるのがいい。

 でも、ラヴィの話では、そのヴァーリーの正体が不明だ。

 ラヴィは、どうやら、そのヴァーリーという首領は実在しないと思っているらしい。しかし、そのヴァーリーのことばを伝えているというポルカーという男に、だれかが命令を伝え、知恵をつけている、とも信じている。

 ややこしいなぁ、もう!

 これで、朝にとっさに思いついた、隣の菓子屋の親爺おやじがヴァーリーだ、という答えが使えるとしたら、いちおう謎は解ける。だが、ラヴィから話もきかないうちに、局長はその考えにたどり着き、調べ、そしてその疑いは成り立たないと結論づけた。

 でも。

 ヴァーリーという首領がいないとはカスティリナにはどうしても思えないのだ。

 どこかに身を隠し続けていて、盗みの場にも姿を現さないとも思わない。

 かならずその場にいて盗賊どもを指揮している。そうでなければ盗賊団は統率できない。蒼蛇ヴァーリーの盗賊団を名のりながら、「ヴァーリーという人はどこにいるかわかりません」では、盗賊が寄りつかないし、居ついてもくれないだろう。そうなれば盗賊団は崩壊する。

 ラヴィがヴァーリーがいないと信じているならば、それは自分が盗みの場に出たことがないからでは?

 ヴァーリーとは名のらないとしても、だれかが指揮しているはずだ。

 それはだれだろう?

 だれか忘れていないか?

 カスティリナは、平服のまま、毛布をかぶらないでベッドにあおけになり、天井を見ながら、あの隠れ家に突入した日のできごとと、ラヴィの言ったこととを、一つひとつ思い出してみる。

 「あっ……」

 思い当たった。

 たぶんそれでまちがいない。

 そして、それは、ヴァーリーが何者かということだけではない、いろいろと説明のつかなかったことの説明にもなっている。

 なんだ、と思う。

 ラヴィは、たぶん無事だ。殺されてはいない。

 盗賊団とは厳しいり合いになるだろう。でも、その斬り合いでカスティリナが命をおとすことがなければ、たぶんラヴィにはまた会える。

 自分の気もちが、盗賊ヴァーリーを倒すことよりもラヴィに会えることに行ってしまったことに、カスティリナは自分で驚く。

 でも、まあ、いい。

 盗賊を捕縛ほばくしたり殺したりするのは正義とか法とかの仕事だ。

 それは盗みや殺しが盗賊の仕事であるのと同じだ。

 カスティリナは傭兵で、傭兵は正義や法の手下ではない。

 正義や法の手下に手を貸すことはある。たとえば、ベニー法務官に。

 でも、世のなかの傭兵には、盗賊に手を貸す者だっている。殺しを請け負うこともある。カスティリナ自身が、たぶん殺し屋の娘だ。

 じゃあ、やっぱりいいんだ。

 いまは眠って寝不足を取り戻すことを考えようと思い、それ以上、考えを追い続けるのをやめて目をつぶった。

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