第27話 シルヴァス局長(6)

 「前に連中はダンツィクに侵入して失敗しているからな。その借りは返したいはずだ。それに、そのラヴィから法務府に話が洩れていることは、やつらにも見当がついている。だから法務府が態勢を整える前に大仕事をやったほうがいい。そして、さらに、いまは、ふだん港を警備しているバンキット傭兵局が壊滅状態だ」

 局長はまじめな顔で苦笑いする。

 バンキット局は大きい傭兵局なので、あの場に出ていなかった傭兵がまだ何十人かはいるはずだ。だから「壊滅」はしていないのだが。

 でも、港にいっせいに荷が着くという日だ。傭兵が警備に出なければならない場所は多く、人数に余裕がない。

 そのなかで、あの失敗で二十何人もの傭兵が動けなくなったのだ。

 たしかに、「壊滅」と言っても言いすぎではない。

 「と、ここまで条件が揃って、それでもやらないとしたら、そのヴァーリーってやつ、手下に見限られると思わないか?」

 「たしかにそうですね」

 カスティリナは局長の熱にあてられたように感じる。

 局長の話しぶりは落ちついていたが、気もちの熱さ、きまじめさはそれでも伝わってくる。

 局長が朝早くから出て行った理由もわかった。

 「で、局長はそのための手配をしていたんですね?」

 「そうだ」

 局長は頷く。

 「あちこちの傭兵局から人を借りる算段をしてきた」

 カスティリナは勢いこんで言う。

 「で、うちの局からは、だれが出るんです?」

 「おまえとおれだけだ……なんだ、そうなさけない顔をするな」

 「だって」

 局長とカスティリナだけでりこんでもむだ死にするだけだと、昨日、局長は言わなかっただろうか?

 局長は口の端をゆがめてから、苦々しく言った。

 「あそこは昨日のあの隠れ家以上にバンキットの縄張りだ。まあ、傭兵局の縄張りなんて気にする必要もないようなものだがな。でも、港でバンキット以外の人間が傭兵の指揮をとると、港で働いている連中や取引商人の連中が不安がる。あれは」

 あれ、というのはバンキット局長のことだろう。

 「しょっちゅう港に姿を見せていて、あの局長がこの港の安全を守ってくださっている、ってみんな信じこんでるみたいだからな、港の連中は」

 つまり、目立つところではめいっぱい目立とうとしているのだ。

 あのすすまみれになっていた局長は。

 そんなひとに……?

 「じゃあ、指揮はバンキット局長が?」

 「まあ、しかたあるまい」

 局長は目をらす。カスティリナは机を両手で勢いよくたたいた。

 ばん、と派手な音がする。

 「局長っ!」

 「なんだ」

 そういうのでおびえないのが、この局長だ。

 「バンキットさんが、こういう指揮がだめなことは、昨日でよくわかってるはずです!それに、バンキットさん、火傷で治療中じゃないですか! たぶん大きい声も出せないですよ」

 「いや、それはわかってるが」

 局長は目を迷わせてから、カスティリナを見上げた。

 「だったら、どうしろって言うんだ?」

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