第25話 シルヴァス局長(4)

 「おまえのせっかくの忠告、活かされなかったぞ」

 「はい?」

 カスティリナが、何か役に立つような忠告をした?

 「ラヴィと言ったかな? その子、いなくなったそうだ」

 あっ、とのどを詰まらせる。

 局長はそのカスティリナをじっとみながら、続けた。

 「その「さびしい山」ていからこっちに戻る途中、ベニーが早馬を立てて知らせてくれた」

 早馬ならば、馬乗り入れ禁止のところにも乗り入れることができ、駆け足させてはいけないところも駆け抜けていい。

 それにしても、早馬というのはおおやけの急ぎの用事にしか使わないものだ。普通は傭兵局長への連絡なんかに使ったりしない。

 ベニー法務官はそのできごとを局長に知らせることを、それほどの大事だと思ったのだ。

 「やられたよ」

 「ああ、でも……」

 そうだ。

 昼間にあの壁によじ上ろうとしたら目立つし、広場や向かいの家から火薬でも何でも投げこもうとしても目立つ。だから、昼間には賊はあの子に手を出さないと思っていたのだ。

 局長は重い口ぶりだ。

 「おまえがあそこを出てすぐ、裏の広場のほうで、お祭りのために法務府の裏に柱を立てて大きい垂れ幕を張りたいという話をしてきたやつがいたそうだ。分局長はかまわないだろうってことで、そう返事をした。ところが、後になって、広場の役人が、あの法務府の裏の大きい垂れ幕は何だと言ってきた。広場のほうでは祭にそんな垂れ幕を出す話はないというんだな。話がおかしいので調べてみると」

 「部屋にラヴィがいなかった、ってことですか?」

 自分で言って、声が震えているのを感じる。

 局長はだまってうなずいた。

 そうだ。お祭だったのだ。

 お祭ならば、やぐらも組むし、垂れ幕も出すし、柱も立てる。柱を立てて垂れ幕で隠せば、柱から部屋に侵入して、また出ても、見とがめられることもないし、怪しまれることもない。

 そうすれば、まっ昼間でも、あの部屋から気弱そうな女の子一人連れ出すのはそんなに難しいことではなかった。

 「失礼します」

 言って、カスティリナはきびすを返そうとした。局長が声をかける。

 「あ、いまからラヴィを探しに行こうとしても無理だぞ」

 無理とはなんだ。カスティリナはかっとなった。

 「でも、できることはやらないと!」

 「じゃ、何をやるか、それを説明してから行け」

 局長は落ちついている。

 何か言わないと、局長は行かせてくれないだろう。黙って出て行ってもいいのだが、いま局長と関係をこじらせないほうがいいとカスティリナは思った。

 カスティリナはふと思いついたことを言う。

 「昨日の隠れ家に行きます」

 局長は言い返す。

 「あそこは昨日から法務府と護民府で見張ってる。だれも中には入れない」

 「いや、隣の菓子屋です」

 ふとした思いつきだったが、気がついてみるとあたりまえのことだ。

 ラヴィの話をきいたときから、何か怪しいとは思っていたのだ。

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