第24話 シルヴァス局長(3)

 「山……か」

 話を聞き終わって、局長は言った。

 カスティリナの顔を見上げて、言う。

 「宮殿の川寄り、いまは、落ちついた、というより、さびれた街になっているあたりだがな、そこに「寂しい山」っていう酒場がある」

 「なんでそんな名まえ……?」

 思わずきく。

 「楽しい山」ならわかるけれど、「寂しい」って?

 いや、その前に、それがどうしたというのだろう?

 「山は鳥も獣もいるし、野菜もきのこもとれる。山っていうのは、だから豊かなもんだ。でも、その山が寂しくなってしまうくらいにいっぱいごちそうするっていう意味だ」

 局長が説明した。

 もしかすると、この国にはそういう言い回しがあるのかも知れない。カスティリナはこの国の生まれではないから、よくわからない。

 「ま、そういう意味らしいんだが、この店、いつ開いているかわからないような、ほんと寂れた店らしい。さっき馬車を飛ばして行って、様子も見てきたし、怪しまれないくらいに近くの人たちにもきいてみた」

 「つまり、ラヴィがいう山っていうのは、その酒場のこと?」

 「おまえが法務官から見せてもらいたがっていた書類によると、どうもそうだ」

 ああ、そうだった。

 ラヴィと話に行くだけではなくて、あのときの見張りの報告書というのを見せてもらいに行ったのだった。

 局長はそれも見ていたらしい。

 「ベニー法務官が頼んだ見張りのなかには、あの家から出て来た連中の跡をつけたやつらもいてな。法務官も昨日まではあの垂れ込みが信用できるかどうかしか考えなかったから、報告の内容はあんまり詳しく読んでいなかったらしいんだが、おまえが行ってから引っぱり出して読み返してみると、あそこを出たやつらの何人もが、その「寂しい山」に行ってるんだ。だとしたら、そこがその「山」だとしてもおかしくない」

 局長は軽く笑った。

 「斜め向かいのそのまた隣の二階が空いてるってことだったんで、家主に頼んで、とりあえずサパレスをそこに詰めさせてる。あとで増援を送るつもりだ。あいつ、昨日、裏口に賊が出てこなかったんで、不満みたいだったからな」

 「ああ」

 正直なところ、ほっとした。

 サパレスは昨日はずっと機嫌が悪かった。ジェシーとタンメリーにきいた話では今朝はもっと悪かった。

 理由はきいていないが、だいたいわかる。

 自分のいるところではなく、カスティリナのいるほうに賊が押し出してきたからだ。

 カスティリナでなく自分のほうに賊が来ていれば、主なやつらは自分が倒していたはずなのに、などと考えているのかも知れない。

 「それよりだ」

 シルヴァス局長は大きくため息をつきながら、投げやりに言った。

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