第22話 シルヴァス局長(1)

 その胸騒ぎも、傭兵局に帰ってひと騒ぎあって、その騒ぎに紛れてしまった。

 大騒ぎではあったが、深刻な騒ぎではない。

 降誕祭というののパレードの衣裳が届いた。それを試着したジェシーが、服に慣れるために部屋を歩いていて、長い裾の留めひも暖炉だんろの柵に絡みつかせてしまったのだ。

 しかも、自分ではずそうとしたり、タンメリーがはずそうとしたり、いろいろやっているうちに、かえって複雑に絡まってしまい、カスティリナが見たときには、だんご結びの結び目がいくつも重なっていた。これはなかなか解けそうにない。

 初夏のことで、暖炉の中が掃除してあって灰がなかったので、灰を巻き上げずにすんだのがまだ幸いだった。

 カスティリナもいっしょになって解こうとするのだけれど、解けない。ジェシーが服を脱いだほうが速いのではと思ったが、どうも脱ぐためにはその紐を解かなければいけないらしく、脱ぐこともできない。

 切ったほうが早そうだが、仮にも宮殿の御廟ごびょうから借りてきた衣裳だ。切るわけにはいかない。

 三人の娘で大騒ぎしていると、そこに局長が帰ってきた。急いでいたらしく、いつもはきちんと整えている髪の前のほうが風に吹かれたように立ち上がっている。

 「カスティリナ!」

 入って来て局長はいきなりカスティリナの名を呼んだが、娘三人が暖炉の前にかたまっているのを見て苦笑いし、

「何をやってるんだ」

と言う。タンメリーが事情を説明すると、局長は

「しようがないやつだな。貸してみろ」

とジェシーの横にしゃがみこみ、絡まった紐をするするすると解いてしまった。

 「うわぁ、局長すごぉい!」

 「おみごと」

と、カスティリナもいっしょになって局長をたたえる。局長が苦い顔をしたのは、照れたのか、それともこんなことで大騒ぎしていた娘たちにあきれたのか。

 「紐っていうのはな、落ちついて探ればどう絡まっているかわかるんだよ。それがわかったら、わりとかんたんに解けるもんだ」

 言って、肩をそびやかす。

 「まあ、ひまになったらいろいろ試してみるといい。仕事にも役立つぞ」

 なんでも仕事に役立つことにしなくてもよさそうなものだ。そう思ってカスティリナが局長を見ると、局長は眉をひそめて、手で上に来いという合図をした。上というのは、階段を上がってすぐのところの局長の部屋だ。

 合図だけして、自分は先に階段を上がっていく。

 ああ、やっぱり何かあるのだ、と思う。

 「無断で外に出たの、ばれちゃったみたい」

 ジェシーとタンメリーにはそう言い残して、カスティリナは局長の部屋へと階段を上がった。

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